きゅうげん

リコリス・ピザのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で交通事故的衝撃を受け、映画の素晴らしさに目覚めるキッカケをくれた監督、PTAことポール・トーマス・アンダーソンといえば、「ズドーンとくる大作」(cf.『ザ・マスター』)から「ニコニコできる小品」(cf.『パンチドランク・ラブ』)まで完成度の高い”映画作品”で圧倒してくれる天才です。
そんな彼が、最近なかよしなハイム三姉妹と旧友フィリップ・シーモア・ホフマンの遺児と組んだときけば、観ないワケにはいきません!

そんな『リコリス・ピザ』、おねショタ的歳の差恋愛かな……なんてオタクな期待を、いい意味で裏切ってくれる「ニコニコ小品」でした。
野心に燃えるゲイリーくんとモラトリアム人間なアラナさん。後ろの背景や手前の人影などは全部ボケ、文字通りふたりにフォーカスした「青春の思い出」をとりとめなくふり返る内容です。ショービズどっぷりで商才もバイタリティもあふれるゲイリーくんの暴走、いっぽう「将来に対する唯ぼんやりした不安」にモヤモヤする現代的若者アラナさんの葛藤や大人にならんがための努力。個人的にはアラナさんに感情移入しながら鑑賞しました。

ただ、「画に対してお話がともなってない」きらいもないではありません。
これは『インヒアレント・ヴァイス』のときにも覚えた感想で、あちらはピンチョンのめちゃおもしろい原作が強すぎたうえ、PTAの画力に切りつめた脚本が追いついていない感じでした。本作も王道な恋愛映画であるがゆえに――物語や展開など枝葉末節にPTA的サプライズはありますが――予想できる予定調和感に中弛んでしまう印象。『パンチドランク・ラブ』みたいに、ツイストしながらもキレよく90分くらいに座りよくしてほしかった。
なにより個人的なモヤモヤポイントは、アラナさんの恋愛模様。
ランスくんが宗教的理由で追い出されるご都合展開とか、惹かれた人が同性愛者でしたオチのセンシティブさとか、喉に小骨の刺さった感じ……(ワックスの恋人の「仕事と恋愛とを天秤にかける相手にどう向きあうか」という嘆きは痛いほどわかるし、それによってアラナの心は大きく動かされるのではありますが)。
ふたりの恋の成就という大きな結末があるからこそ、末梢要素の回収されなさが片手落ちにみえてしまうのかも。これは抽象度の高いPTAらしい表現描写の弊害といえますね。

まばゆいばかりの70s西海岸グラフティが素敵な作品ですが、その陰に一考の必要なところがいくつかあります。やっぱりPTAには骨太で味の濃い「ズドーン大作」を撮ってほしいです。
……それにしても文句たれず全部飲みこんで付いてくる弟グレッグくん、いい子すぎますね。健気でカワイイ。