Jun潤

マイスモールランドのJun潤のレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.5
2022.05.11

奥平大兼出演作品。

日本人離れした容姿の女子高生サーリャはクルド人の家系。
覚えた日本語を駆使して、学校にバイト、日本語を話せないクルド人のサポートに大忙し。
そんな中、サーリャ一家の難民申請が降りず、ビザが失行してしまう。
働くことも許されず、埼玉から東京へ行くにも申請が必要になった。
しかしサーリャは、バイト先の聡太との交流を求め、度々東京に通う。
次第に自分がクルド人であることにこだわり続けることに疑問を持ち始め、父とも喧嘩になる。
そして、父の労働が露見し、入管に収容され、家賃もままならず、バイトも解雇され、大学の推薦もなくなる。
血と国と家族、自分の正体はなんなのか、居場所はあるのか、行く先を模索する少年少女が描かれる。

はぁ〜これはいい!傑作!!
2022年ベスト入り確定の一作。

今作で印象に残ったのは「親と子供」そしてタイトルに込められた「自分の世界」です。

「親と子供」については、対比の描写が凄まじくよく、理不尽な世間に打ちのめされ、時に子供を優しく支え見守る大人の姿。
血にも国にも家族にも縛られず、年相応に純粋な目で世界を見て、したいことをして生きたいように生きるロビンら子供達の姿。
そしてその間で揺れ動き、子供のように純粋ではないし、かと言って親のように理不尽を受け入れられない。
そんな多感で面倒で可能性に溢れた時期をサーリャと聡太は過ごしていました。

「自分の世界」については、親の力を借り、時に自立して自分の夢を追い求めるサーリャと聡太の姿はもちろんのこと、細かいキャラもそれぞれに「自分の世界」を持っているのを感じました。
特に印象的だったのはパパ活をしている同級生のまなみと、池田良演じるサーリャのパパ活相手ですね。
パッと出てきただけだとサーリャの人生に迷いを与えるだけの存在に見えますが、この作品の主題を考えると、彼女たちにも彼女たちなりの事情があって、彼女たち自身の「自分の世界」のための行動をしていたのかなと思いました。

クルド人として生き続け、クルド人として生き抜こうとする父が残してくれたのは、サーリャが自分らしく生きる手段だった。
明確な描写はないながらも、ほんのりと希望を見出せるいい終わり方だったと思います。

画面の光彩もよかったですね。
いわゆる邦画フィルターのような、狙った淡さや暗さはなく、終始明るい画面。
しかしその内容が重苦しいので、内容と画面でバランスをとっているいい構成だったと思います。

そして主演2人の演技がまたとてつもなくよい。
セリフの語気や声量、間の取り方が絶妙で、脚本のキャラクターがそのまま飛び出してきたような、とても自然な演技をしていました。
まだまだ演技経験の浅い2人とはいえ、どこまでがセリフでどこからがアドリブなのか、微笑ましい想像が膨らむのもまたよきですね。

サーリャにとっての夢と日常の象徴であり、作中で一番クルド人を差別や色眼鏡なしに見つめていた聡太を演じたのが奥平大兼。
顔つきはどことなく若い頃の山崎賢人のようですが、纏っている雰囲気が経験の浅さからか狙ってか、いい意味でとても普通。
でもそんな彼がどこにでもいる男子高校生の聡太を演じていたからこそ、性善説的な優しさや愛情、普遍的な優しさが描写されていたと思います。
Jun潤

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