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オッペンハイマーのKUBOのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
今日はアカデミー賞7部門を受賞した注目の作品『オッペンハイマー』をIMAX先行上映にて鑑賞。

すごい映画だった。3時間があっという間だ。多過ぎる情報量と連続する緊張感。息つく暇もなかった。

だが、日本人としては複雑な気持ちだったなぁ。

以前から言われていたことだが、やはり「広島」「長崎」は、被害者の人数でしか語られない。被害の惨状は全く映像として出てこない。

原爆投下の成功にアメリカの旗を振って喜ぶ人たち。もちろん、この時代、日本国内でも鬼畜米英の軍艦をいくつ大破したかで万歳万歳とやっていたわけだから同じなんだけど、やはりやるせない。

その歓喜に沸く人々の中に、原爆でケロイド状になったメイクの女性がイメージとして出てくるが、実はこの女性はノーラン監督の娘さんなんだと言う。

わかるんだよ。本作の中にリアルな広島・長崎の惨状を入れたら、アメリカ本国での公開すらできなくなるかもしれないという大人の事情も。元々、核兵器反対だけの映画じゃなくて、オッペンハイマーの人生を追った作品だと言うことも。だから、今書いてるこんなことも作品のレヴューと言うよりも、日本人として描いてほしいこととの乖離からくる不満だと言うことも。

それでも、この映画の受賞に喜んでくれたハリウッドの人たちには、本作の後に『ひろしま』とか『父と暮せば』とか『はだしのゲン』とか見てほしいなぁ。

それでも、アメリカでここまでの映画ができたことは評価に値するのだろうなぁ。まだ多くのアメリカ人が、あの原爆投下を肯定しているのだから。

映画本編は、オッペンハイマーが赤のレッテルを貼られ、ソ連のスパイとして尋問されている「戦後」から始まり、そこに原爆開発に携わった若かりし頃が振り返るようにインサートされて語られていく形だが、

その「戦後」パートでオッペンハイマーと対立するストローズ役のロバート・ダウニー・Jrは素晴らしかった。アカデミー賞助演男優賞も納得の演技だったが、あのアカデミー賞授賞式での失態にはがっかりした。同じアジア人としてね。

で、このストローズが戦後、原子力委員会の委員長としてビキニ環礁での核実験を行い、第五福竜丸の事件を引き起こし、ひいては『ゴジラ』まで生み出した男だという『ゴジラ・マイナスワン』にも繋がるところは興味深い。

そして原爆開発が行われていたロスアラモスは、あの『アステロイドシティ』のモデルだってことも、わかるよね。

見終わって、すごい疲れた。

ラスト1時間は対ストローズとの裁判が描かれて、スパイ容疑を晴らして笑顔で握手って、それでいいのかね(?)と思ったら、最後の最後に「核兵器反対」? だったら裁判の結果なんかエンドロールのスーパーインポーズでもいいから、広島・長崎の惨状を見た後のオッペンハイマーの苦悩をちゃんと見せてほしかったし、だからこそ、その後の水爆開発への反対に繋げてほしかったなぁ。

クリストファー・ノーランはやっぱりすごい監督だよ。キリアン・マーフィーも、ロバート・ダウニーJr.も素晴らしい演技だったよ。CGを使わないSFXもIMAXもすごかったよ。

でも、アカデミー賞は獲っても、日本アカデミー賞はあげられないな。

山崎貴監督、『オッペンハイマー』へのアンサー映画、期待してます。
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