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オッペンハイマーのよもぎのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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『原爆の父』オッペンハイマーの栄光と衰退。
オッペンハイマーという理論物理学者がまだ駆け出しの頃、国家プロジェクトである「マンハッタン計画」の主導者を任され原爆の研究開発を行っていた頃、原爆投下後の苦悩と栄光、水爆の開発に反対し告訴され栄光を失った頃―――様々な時代を行き来しながらJ・ロバート・オッペンハイマーという人物と彼が見た世界を描く物語。

ノーラン作品らしい語り口の複雑な構造と物理や当時の政治的な話題が矢継ぎ早に飛び交い登場人物も大物俳優ばかりとはいえ兎に角多く難解。
それでも主演のキリアン・マーフィーを始めロバート・ダウニー・Jrやエミリー・ブラント等豪華ベテラン俳優達(個人的に『ザ・ボーイズ』のヒューイが居てビックリしました。後一瞬気付くのが遅れた想定外のゲイリー・オールドマン)の演技は確かで原爆実験の緊迫感や迫力は凄まじく、没入感も見応えも十分。特にオッペンハイマーとアインシュタインとのやり取りが印象深かった。
もう少しオッペンハイマー周囲の人間関係や当時のアメリカの世相というか赤狩り周辺について等詳しく知っていたら更に物語に没入出来ただろうな、とは思ったもののそれでもアカデミー賞各賞総ナメも納得の力作だった。

ただ、やっぱり原爆周辺の描写を観ているとどうしても恐怖と怒りが勝る。
長閑な投下場所の選定会議や実験成功を喜び歓声を上げる化学者達の姿を観ながら数々の原爆を扱った国内作品で観た何処までも続く焼け野が原やそこに降る黒い雨の光景や原爆資料館で見た目を塞ぎたくなる様な資料の数々被爆者の方の講話が脳裏を過ぎって嫌悪感と怒りに息が詰まる。
オッペンハイマーが実際に見なかったから描写しなかったというのが監督の考えなのは知っていたけれど、散々連呼していた広島・長崎の原爆が生み出した惨状を台詞のみで終わらせ画面の中で描かないのは矢張り些か不誠実な描き方だと思った。

戦時中の事でどっちが被害者加害者も無いし、実際あれが無かったらこの頭のいかれたやべぇ国は一億火の玉を爆進して止まらなかっただろうし、この映画はタイトル通りオッペンハイマーの映画なので被爆した側に寄り添うものではないということなのかな、と思いつつモヤる。
オスカー受賞式の助演男優賞の時のあれこれも随所で思い出してそれも合わせてモヤモヤと……。うーーん、やっぱり俺の中で今年のアカデミー作品賞は「キラーズ・オブ・ザ・フラームーン」だったんだよなーーーーーー!!!!!!!!!!
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