よもぎ

12日の殺人のよもぎのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
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フランスの地方の町の路上、10月12日の深夜に突然何者かによって火をかけられ一人の若い女性が焼死した―――実際の"未解決事件"を基にしたフィクション。

衝撃的なフェミサイドの現場に始まり、刑事達による聞き込みなどによる捜査が暫く続いて次第に被害者女性の人柄や人間関係、殺害動機が見えてくる……そんな事件を解決に導くごく普通のミステリーものの映画を観ているつもりになっていた所を被害者の親友の「女の子だからよ」の一言でハッと目を開かされた。この映画は実際にあったフェミサイドを通してフェミニズムを考える映画だとそこで改めて思い知らされた。

フランスよりも今現在我々の住まうこのジェンダーギャップ指数125位(146ヶ国中)島国だとより顕著に性犯罪のみならず、女性が被害に遭う事件が発生した場合の多くに加害者の情報は守られ反対に粗を探す様にして執拗なまでに被害者の落ち度を探す、晒す、暴く傾向が際立って多いように思う。
だからだろうか、女性が殺され男性の刑事達が捜査し「恋愛関係のトラブルが多かった」「彼氏やセフレが多数居た」という情報が出た途端に犯人の候補は男関係に絞られ、まるで彼女が尻軽"だから"、"自業自得"で殺されたと言わんばかりに話を進める―――この流れを当然の様に受け入れていた自分がとても悔しく恥ずかしくなった。
劇中の台詞の様に男が殺して男が取り締まり男が勝手に諦めた、そんな何処までも被害者女性を透明化した様な他人事感拭えない幕引きをした未解決事件を再び動かしたのは女性判事や女性刑事が現れたのがきっかけ……というのは流石に強めのご都合主義感を感じてしまうのだけれど、そもそも男だらけの刑事課とはいえ『女に火をつけるのはいつも男』という謎固定観念で初動から容疑者は男縛りになっていたり変に妻との実生活のゴタゴタを被害者とDV男に結び付けて暴走してみたり,これが実際の事件捜査の流れだとしたらマジで相当にヤバい()と思うのでこれもまた物語をメインテーマであるフェミニズムにフォーカスする為のフィクション要素だと飲み込み。(いや流石に捜査関連のアレコレはフィクションであってくれ頼む、のレベル)よく出来た脚本だったと思う。

とはいえ実在の未解決事件を扱っているからこそ事件の犯人は見つからないまま、けれど何となく希望ある風に終わるラストは正直結構モヤッとしたけれどまぁそれも良しとして。
「女の子だから」は本当に、とてもシンプルながらここ最近観た映画の中でも特に心に突き刺さった良い台詞だった。
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