にゃーめん

オッペンハイマーのにゃーめんのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2
「我は死なり、世界の破壊者なり」

原爆の父、物理学者のオッペンハイマー博士の半生を描くことを、これまで数々の作品でキャリアを積んできたクリストファー・ノーラン監督が「今、このタイミングで」選んだという所からして、監督の矜持のようなものを感じた。

人類全てに共通する普遍的なテーマをオッペンハイマーという実在の人物を通して伝えようとしているのだ。

大学で教鞭をとり物理学を教える側の、いち教授であったオッペンハイマーが、大量破壊兵器を生み出すまでに至った経緯を知るにつれ、宮崎駿監督の『風立ちぬ』(2013)を思い出した。

『風立ちぬ』の主人公、堀越次郎は零戦の設計者であったが、元々は飛行機が純粋に好きなだけの青年で、平和利用のための旅客機を作ることを夢見て設計技師となったのに、最終的には特攻のための戦闘機を作るために自分の能力を国に利用されていた。

オッペンハイマーも原爆開発をする前は、純粋に宇宙や星に興味をもち、ブラックホールに関する理論の研究を行っていた平和主義者だった。
各国の物理学者仲間と、難解な計算や理論について討論しているときのオッペンハイマーの生き生きとした姿でなぜか涙が出てしまった。

純粋な知的好奇心や探究心で生み出されたものが、人類史上最も邪悪な核兵器であることの絶望。
大勢の罪のない市民を殺したくて物理学を学んでいた訳ではないはずなのに。

ロスアラモスでのトリニティ実験の様子をIMAXで体感できたのも、人生において忘れられない体験となった。

実際に爆心地にいたと錯覚するような爆音のサウンドデザインと、光の演出は本当に恐ろしく、「あ、私今死んだわ」と思うほど。

原爆実験のシーンはあるが、戦争真っ只中の話なのに、実際の戦場のシーンは映さず、日本に原爆が落とされたときの様子も、オッペンハイマー自身は電話で知るというあたりも、『風立ちぬ』と相似しているように思う。

自分が作ったものがその後どのように使われるか一切関与できず、国の言いなりで何の権力も持たない、一介の科学者に過ぎない事を思い知らされる、トルーマン大統領との面会のシーンも印象的だった。

一線を超えた知的探求の末に、自らの人生のみならず、世界を破壊する兵器を生み出す結果となったオッペンハイマーの映画が、広島・長崎への原爆投下から、来年で80年を迎えようとする日本で公開できた意義は大きい。
日本の映画館での上映に尽力された関係各所への感謝で締めくくりたい。
にゃーめん

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