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オッペンハイマーのBossDogのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
「原爆の父」オッペンハイマーがいかにしてマンハッタン計画に参画し、原爆を作り上げ、その名を全米に轟かせたのか。オッペンハイマーの栄光と挫折。そして苦悩と葛藤を描いた、被爆した日本人である我々にはセンシティブ過ぎる伝記映画でした。

オッペンハイマー視点の聴聞会(カラー)とストローズ視点の公聴会(モノクロ)の二つのパートに分けられ、それらがノーラン特有の時間軸操作によりスクリーンに次々と映され交差していく。
視覚的補助があるものの、油断していると、いつの何の話をしているかわからなくなる。

3時間の大半がこの”法廷劇”にもあるような「会話」のシーン。耐えられるはずもない尺なのに、一つも飽きなかった。キリアンマーフィーを始め、世界を代表する名俳優達の演技には重たい重力で吸い込まれるようだった。

そしてなんといってもこの映画のカギとなるのはもちろん「原爆」。マンハッタン計画からあの日本での悲劇8/6と8/9の出来事へと物語は進んでいく。
インセプションのように、プロジェクトに向けて敏腕メンバーを招集していくシーンはこわいはずなのに爽快で楽しい。

トリニティ実験の時の地獄のカウントダウンは今まで味わったことのない恐怖感を抱いた。これから起きる悲惨すぎる「結果」を我々は知ってるからこそ、怯え慄くのだろう。
そして、スクリーンを前に体験する「核の恐怖」には体が震えた。
映画館で観るべき。絶対に。

実験成功による、制圧的平和の訪れ。拍手喝采に包まれる米国。それと同時に聞こえる「足音」。オッペンハイマーは徐々に原爆開発へ道徳的信念から後悔や疑問の念を抱くように。ここのオッペンハイマーを描く描写は凄まじく怖かった。

原爆の最初で最後の被爆国である日本で育った我々には複雑な感情を抱かざるを得ないけど、世界を変えたオッペンハイマーという人物とその栄光や苦悩を知っておいてもいいと思った。

そしてそれらをエンタメとして昇華し、圧倒的な映像力と音楽で魅せてくれたノーランに感謝。
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