ヨツ

オッペンハイマーのヨツのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9
振り返ると映像作品として素晴らしいなという思いです。常に糸が張り詰めるような緊張感があり、なんなら鑑賞後ちょっと体調が悪いです。

とにかくサウンドがすさまじく、誰にも感情移入させず、どこもドラマチックにならず、ただただオッペンハイマーのあり方・行く末を見つめる時間でした。映像は冒頭のものが印象的で、原子粒子や波など恐らくオッペンハイマーが描いているだろう頭の中の視覚化によって、彼が見ている世界がいかに私が見ている世界と異なるかを想像させる糸口になってくれたと思います。

未知に辿り着きたいという人間の執念は凄まじく知識欲をねじ伏せるのは人類にとって難しい試練でしょう。人類は未知の扉への渇望により豊かになり愚かになり苦しめられている。
自らの選択を悔いたとしてもオッペンハイマーに対して同情を抱くことは、特に日本に生まれた身としては難しいですが、オッペンハイマーが行動しなかったところでオッペンハイマー以外の誰かが辿り着いたと思うし、無惨な結果に行き着いた可能性も高いのではと思います。
劇中のアインシュタインの君を許したのではなく、彼ら自身のために許すのだみたいな台詞も印象的です。清廉潔白な民族も国もなく、みな自分のしたことに多かれ少なかれ目を瞑り、人を許し許されようとしていると思うし。

それでも私たちは生きる限り考え続けなければならない。愚かな選択が不可避に思えても、それを避けるべく考え続けなければならない。そういう映画だったように私は思います。
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