きりん

オッペンハイマーのきりんのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.4
世界初となる原子爆弾の開発に成功し「原爆の父」と呼ばれた物理学者J・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)の栄光と没落の生涯を描く伝記映画。


ある程度の知識を持って鑑賞した方が良いと教えてもらっていたのでNHKの番組『映像の世紀バタフライエフェクト マンハッタン計画オッペンハイマーの栄光と罪』で事前に勉強してから挑みました。そのおかげもあって理解度が全然違った。NHKさまさまです。
歴史に関わる作品はある程度の知識あった方が断然楽しめますね。

さすがアカデミー作品賞含む7部門受賞とあって重厚で濃厚で圧巻となる180分。

キリアン・マーフィの苦悩と葛藤描く演技はもちろんながら脇を固めるエミリー・ブラント、ロバート・ダウニー・Jr、マット・デイモン、フローレンス・ピュー等々錚々たる豪華キャストにド肝抜かれる。ピューちゃんがこんなにも身体張っていたとは。

登場人物がとても多くて第二次世界大戦下という歴史的背景、戦争を終わらせたと言われる原爆、はたまたその後の水爆開発、赤狩りと内容はてんこ盛り。

物語はオッペンハイマーがスパイ容疑を持たれての聴聞会から始まり、対立する事となるルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)の公聴会を並行しながら語られるため、時間軸が分かりにくくなっている(これはノーランの十八番)。ただ過去作『メメント』『インセプション』のような難解さとは全く違っていてモノクロで迷子にならないような工夫が見られたり先にも述べたように多少の事前知識によって容易にクリアできると思われる。

180分という長尺ながらも様々な歴史を語る上では十分な時間はなく、ある程度駆け足、端折りながらなので頭の中で整理、補填しながらの鑑賞が必要とされるなとも感じました。

人類が未だかつて見たこともない人智を超えた大量破壊兵器を前に扱うことの責任や後悔がヒシヒシと伝わり、ヒロシマやナガサキのワードが出た時はなんとも言いえない心臓を掴まれたようなざわつきがありました。

科学の進歩や有益性が戦争に用いられることの悲劇。原爆はその最たるもの。これ以上の悲劇を私は知らない。

原爆投下とその成功を喝采する米国民、その反面罪の意識に苛まれ焦燥するオッペンハイマーとの対比はとても印象的でした。

世界を良くしようと研究する科学者が政治的に、ましてや人の命を奪うことに利用される恐怖はあってはならない。
キリアン・マーフィの成功の演説とは逆に悲惨な姿を映し出すブルーの瞳がいつまでも心に残る素晴らしい作品でした。
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