ふーは

オッペンハイマーのふーはのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

アカデミー賞を取るだけあって非常に優れた映画だと感じた。

ただ、オッペンハイマーやアメリカの近現代史について事前の予習は必須であると感じた。

私は近現代史に非常に興味があり、更に映像の世紀でオッペンハイマーの半生について大まかに把握していたため、苦労せず、ストーリーや展開を理解出来たが、展開の焦点が、聴聞会と原爆完成までの彼の人生を中心に複数の時間軸や人物を行ったり来たりするため、構成としてはかなり複雑であり、理解が難しいと考える。

当たり前だがロバート・オッペンハイマーという人物の伝記映画のため、広島・長崎の被爆描写はない。
それ故に、かなり賛否別れているが、結局彼は直接被爆地の様子を見る事は生涯なかったため、そういったシーンが無いのも個人的に納得できる。
また、広島の原爆被害を(恐らく)写真付きで語っているであろう場面においても常にオッペンハイマーを映していたが、オッペンハイマーという人物を最大限描くためのカメラワークではないかと考える。

広島・長崎の被爆を矮小化するつもりは無いが、オッペンハイマーが背負った業は、生きた人間に対する狂気の兵器実験という個別の事象ではなく、人類を滅ぼしうる兵器を生み出してしまったという、原罪とも言える人類全体に対する罪悪感や恐怖であると感じた。

神の領域を犯した罪に対しての恐怖や罪悪感故に聴聞会で抵抗や弁明をせず、断罪を望む彼に対して、「聴聞会で罰せられることが贖罪ではない」さらに言うと「人類を滅ぼしうる災厄を生み出した罪と永遠に向き合わなければいけない」と天啓にも近い言葉を与えるのが彼の妻やアインシュタインであり、この2人の存在が、彼を現実に引き戻し、苦しませると同時に、彼の人間らしさを取り戻しているように感じた。

基本的に感情の起伏が無く、表情の変化も乏しい彼が心を乱される演説シーンの演出は見事であり、理性や理屈で抑え込めなくなった感情の爆発を巧みに表現している。

3時間があっという間であり、映像作品として非常に楽しめた。

日本における特筆すべき体験ゆえに、内容に否定的な意見も多いが、大義を信じ、研究者として邁進した結果、世界を滅ぼす悪魔の兵器を生み出してしまった世界や人類全体に対する罪悪感を抱き、苦しみ続けた男の人生の伝記としては非常に素晴らしく、そのように観るのが妥当と考える。
本作は原子爆弾という視点でみると、個別の事象ではなく、もっと抽象的な、未来に起こりうるであろう人類の終焉も含めた、原爆を取り巻く全てにに対する業の物語であり、その恐怖の兵器は数十年前に既に生み出されているという核兵器への警鐘の物語でもあるのではないだろうか。
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