アラカン

オッペンハイマーのアラカンのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
世界を変えてしまう力に人類を到達させた天才科学者 オッペンハイマー。
その先に見えた希望のベールが剥がれた時、一体彼は何を思うのか。


去年作品の内容を倫理的に批判してたやつら全員観てないのがわかった。
まあバービーとポップなコラボしてたのが良くなかったんだろうな。

キリアン・マーフィーと知的なキャラの相性は抜群で、彼の声と視線はバーバルな情報以上に多くを物語る。主演男優賞も納得の演技だった。
助演男優賞のロバートダウニーJrはMARVEL出演以降色濃くなってしまったトニー・スタークの面影を完全に払拭した。まあステージ上の振る舞いのせいで別のイメージがついてしまったけども。
今回はアクションでもなく現実空間が舞台だったのでノーランのCG嫌いはあまり発揮されなかったが、その分演出も挑戦的でやはり楽しめた。
毎年思うが今年のアカデミー賞は豊作だったなあ。

オッペンハイマーが原爆を開発するまでの人生を軸にしながら、戦後の赤狩りの様子が所々で挿入されていた。彼の始まりと終わり、2つの時間軸を同時に始め、それぞれで進んでいく。

カラーとモノクロ、それが意味することを自分なりに考えてみたものの全く納得できるものは思い浮かばず結果ググッてみることに。どうやらオッペンハイマーの「主観」か「それ以外」で分けられているらしい。めちゃシンプルなのに自分で気づけなかったことが悔しい。

特定の思想の影響も少なくなかったろうが、ひたすらに世界を見つめ、ただ何よりも自身の理想を芯に掲げていた。もしかしたら彼の中では右も左もなく、ただその目標に進んでいただけなのかもしれない。「私も揺れていたい」の言葉が示すように、固執せずその時々を選んでいく。そうして導かれた先にあるはずだった理想郷は幻想でしかなく、彼の発明は新たな惨禍を招くだけだった。絶望の末現状に開き直るも、理想へ邁進した日々すらも蹂躙される。後に名誉が回復されても、その心境は推し量るに余る。果たして彼は自身をどう回想したのだろうか。

日本人として原爆を肯定するつもりは毛頭ないが、当時の世相に生きた彼らの選択を否定する権利も勿論ない。できることはただ反省し学ぶことであり、その意味でこの作品は日米両国の良い教材にもなるのだと思う。
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