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オッペンハイマーのyoichirrrのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
地を踏むその足音は、
賞賛か、贖罪の始まりか。


クリストファー・ノーラン最新作は原爆の父、ロバート・オッペンハイマーの半生を描く。

日本ではその題材ゆえにか配給が見送られ、3月末についに公開。
国内配給も歴代ノーラン作品を送り出した東宝東和ではなくビターズエンドに。
(はじめのクレジット、本国の配給がユニバーサルなのノーランで見慣れな過ぎるのは余談)


紆余曲折あって唯一の被爆国で公開された本作。色々な意見も散見されるよう。
私は、その実は静かに平和への警鐘を鳴らすものだと感じた。

リアリティの中でクリエイティブを追求する彼だからこそ、描けたシーンが多くあったと思う。
アメリカ国民は勝利に笑い、原爆の父は呪われ、残された人々は明日へと願いを託す。
被曝描写がないという声もあるよう。罪悪感で写真を直視できないオッペンハイマーなどのシーンが散りばめられ、個人的にはなくても違和感はない。近年はアウシュビッツを描く時に実際の惨状を映さないのが、遺族や故人への配慮・敬意とされているケースもあるとか。
(まあ今作がその文脈にいるかは怪しいし、ノーラン本人の広島と長崎へのスタンスも微妙なところではある)

どこまでが史実に基づいてるのかは分からんが、絵空事じゃない地に足着いた平和への願いがあったように思う。
彼らしい編集も相まって、ぐっと焼き印が押されるようなラストカットは印象的でした。


上記の通りテーマは素晴らしかったが、映画としてはモヤっとする部分も残る。
タイムラインを交える演出は、序盤の鬱描写は後半に行くにつれて多少味が出てくるようでよかったけど、RDJパートは全体的にたるい。あんだけ後半で国内の水爆論や赤狩的な話をやるなら、前半で散らす必要性は感じない気もする。
またそれに伴って使われるモノクロもむしろ困惑させるようで同じく必要性を感じない。

RDJのキャラ的にも『アマデウス』のような歴史物にしたかったのかな。


以下美点。

トリニティ実験の描写は凄まじい。
まあ実際の核分裂ほどの絶望感はないとはいえ、劇場でここまで緊迫感を感じたのは久しぶり。

全体的にルドウィグ・ゴランソンのサントラは突出して良かった。完全にノーランのツボを掴んでる。

ノーラン組の演技はもちろん、今作の俳優陣はみんな良かった。
エミリー・ブラントどんどん色気と迫力に箔がついてくる感じだ。
デイン・デハーンも見ないうちに上手くなっててよかった笑


オスカー主演男優賞を獲得したキリアン・マーフィ。彼の授賞式でのスピーチで結びとします。

「ご存知の通り、私たちは映画を作りました、原爆を作った男についての映画です。
良くも悪くも私たちは皆、オッペンハイマーの世界に生きています。
この映画を“世界中の和平を構築する人々”へ、捧げたいと思います。」
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