Kuuta

ノースマン 導かれし復讐者のKuutaのレビュー・感想・評価

3.7
順当にステップアップしていて嬉しい。「よくわからない昔の人々」に没入させ、逆説的に現代性を立ち上げる。目に見えて予算が増えた新作でも、ロバート・エガースの作家性は変わらなかった。

「ウィッチ」「ライトハウス」では予算上の制約もあっての、閉鎖空間での抑圧と狂気のドラマだったが、今作は抜けの良いアイスランドを舞台にしたアクション大作。「史上最も忠実」という考証に基づく美術に、シングルカメラでの長回しで、徹底的に画面を作り込んでいる。

人や動物の数も、ロケーションのスケールも今までとは全く異なるが、やり過ぎなリアリティの縛りとともに、異世界に生きる緊迫感を高めていく手法は変わらない。多分この人、SFでも「エイリアン」的な映画が撮れると思う。ヴァイキングと化した主人公の序盤の大暴れ略奪シーンは最大の見どころ。炎628みたいなことまでやっている。個人的には、急に出てきたワルキューレが崖から空へ飛んでいく場面が一番上がった。

パラノイアに苦しむいつものパーソナルな映画を想定していたので、ハムレットを織り交ぜた演劇的、客観的な語り口には面食らったし、求めていたタイプの映画ではなかった、というのが正直なところ。メジャー感を増した作劇はA24を離れ、ユニバーサルで撮る上での挑戦だったと捉えたい。怪奇映画の伝統ブランドに身を置き、いよいよノスフェラトゥのリメイク話も聞こえてくる。今作のクオリティなら、十分任せたいと思える。今後が大変楽しみだ。
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