三隅炎雄

横紙破りの前科者の三隅炎雄のネタバレレビュー・内容・結末

横紙破りの前科者(1968年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

若山富三郎の『前科者』シリーズ第2作目。山下耕作の最初のは自身の『極道』1作目の毒抜き版みたいな生ぬるい映画で芳しくなかった。これは脚本笠原和夫、監督小沢茂弘に変えて仕切り直しをしたもので、驚くほど奇っ怪な映画に仕上がっている。

貧民窟に住む若山富三郎と弟分の潮健児のゴロツキ二人は普段は香典泥棒みたいなチンケな稼ぎをしているのだが、浅草の任侠団体2つの対立を利用して大儲けを企む。この主人公そもそも群れてデカい面をする奴らが大嫌いな性分で、金看板に憧れた『極道』の島村親分とはここが大きく違うのだが、基本ああいう任侠コメディなのは変わらない。ところが徐々に雲行きが怪しくなってくる。主人公だけでなく、映画じたいが横紙破りになっていく。

貧民窟には若山が尊敬し世話をしてやっている病弱の老人小沢栄太郎がいる。大陸で孫文のボディガードをしていた人物で、おそらく宮崎滔天のイメージが借用されている。実際の滔天はアジア主義運動に挫折し一旦浪曲師になったが、この映画では貧民窟に茶川一郎の浪曲一座が、生き別れになった若山の女そっくりの中村玉緒(一人二役)を連れてやって来る。そしてやくざにお前はこの世ではすでにゴミなのだと嘲笑われた小沢栄太郎が絶望と憤怒に突如、まるで水滸伝の登場人物のように凄絶な割腹自殺を遂げる。小沢の激情的なゴア描写と生と死を行き来する二人の中村玉緒の存在が映画の定型を揺さぶる。

クライマックスでは、棺から飛び出た胡麻塩に白装束の若山が、やくざ相手に墓地を文字通り血の海にしていくスプラッター映画さながらの描写が展開する。それは単純にホラーコメディのようにも見えるし、死んだ小沢の無念を引き継いで水滸伝の中の豪傑が鬼神となって生き返り暴れるさまにも見える。
主人公が死んだかどうかははっきりしないと字幕が告げて、映画は終わる。生きているのか死んでいるのかわからない。反逆の思想は静かにまだ生き続けているということなのだろう。
三隅炎雄

三隅炎雄