かぴばる

イニシェリン島の精霊のかぴばるのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

 地味な映画だと思っていた。はじめは。

 本作は、あらすじにもあるおっさんふたりの仲違いを、2時間弱かけてじっくりやる。本当にそれしかやらない。それだけをじっくりやるのに、小粋なジョークと癖のある島民たちのキャラクター、テンポのある展開でまったく飽きさせてこない。

 コルムの、残りの人生に対する焦りみたいなものも強く共感できる一方で、そのやり口はまさに「12歳かよ」といいたくなる稚拙なもの。またパードリックはコルムに指摘されたとおりなんだか絶妙に退屈な感じの男で、これを短い会話の中で観客にも思わせてくるのがすごい。

 事態が切迫するにつけパードリックのしつこさ、執着みたいなものが狂気を帯びてくるため、思わず「もうやめなよ……」と止めたくなってくるが、そもそも他人を「面白くない」「面白くなってきた」などの価値基準で判断するコルムも大概失礼なので、キレられる分には仕方がない。

 指を切ることにはたくさんの解釈がありそうだが、私はコルムが本当は自分の音楽の才能をとっくに見切っており、そのうえで何者でもないまま死ぬことが恐ろしく、パードリックを言い訳に指を切ることで未練を断ち、また自身の才能のなさから目を背けようとしていたのではないかと思う。そうだとしたらパードリックはとんだ巻き込まれ損だが、まぁここは作中の言葉を借りて「あいこ」としておきたい。傑作。