Jun潤

イニシェリン島の精霊のJun潤のネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

2023.02.01

予告を見て気になった作品。
予告を見ただけでは、突然の絶縁を言い渡された友人との関係性というだけで、果たして感動か狂気かサスペンスなのか、どのように着地するのかわからないストーリーに期待と不安を込めて今回鑑賞です。

1923年、アイルランドにある孤島、イニシェリン島。
そこに住むパードリックは、いつものように友人のコルムをパブに誘う。
しかしコルムは突然絶交のみを伝える。
あまりの突然の出来事に動揺を隠せないパードリックは、コルムに理由を問いただすが、何も答えないどころか、次に話しかけてきたら自分の指を切り落とすと告げられる。
コルムは一体どうしてしまったのか、平和だったはずの島に、何かが起きてしまったのか、何も起きていなかったのか。
パードリックとコルムが示す、“退屈”と“友情”と“人生”ー。

暗喩がすごい。
僕が今作から感じ取ることができたのは、すぐ隣の本土では絶え間ない内戦が起きていて、島にも砲撃の音が鳴り響く。
一見平和だが閉塞的で、誰もが顔馴染みでプライバシーも個人情報もないような島の人間関係。
自分も島もいつどうなるかわからない、緩やかに死へ向かっていくような状況が背景にあったんだと思いました。

そんな状況を背景に、変わらぬ退屈を過ごし続けるか、永遠に残り続ける何かを創造するか。
相反する2つの事柄を、男同士の湿った友情という形を借りて、人生の意味を問う、そんな作品に感じました。

コルムが指を失ってでも断ち切りたいほどパードリックが異常だったのか、パードリックの友愛をも受け付けないコルムが異常だったのか。
左手の指全てと家、大事に思いやっていた妹とロバ、双方大切なものを失った今となってはもはや分からず終いのことなのかなと思います。
2人の変化があっても何も変わらない島そのものが異常だったのかもしれません。

しかしそんな狂気が表層化しない状態、いえ、表層化しっぱなしでむしろ隠れた場面が無かったからこそ、何も起こらないストーリーに逆にハラハラさせられました。
それにズルいぐらいにセリフがいちいちブラックコメディしてきていて、笑えない状況でも感覚を震わせにくるのがもう小憎らしい。

コリン・ファレルの演技もまた良かったですね。
序盤のコルムに対して困惑するしかない八の字眉毛、コルムの奇行により腹が据わって以降のナイフのような眼差し、かと思いきや、巣立っていった妹を想って眠れない姿。

ドミニクなんで死んでしまったん。
Jun潤

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