なつこ

イニシェリン島の精霊のなつこのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.1
こんなに静かなのに、こんなに息もつかせない目が離せないなんて、私は何にこんなに惹き付けられていたのだろう。

美しい島。何もないその島を出ていく者と、アイデンティティを失ってもなお出ていかないと言う者。

最初はえ?そんな急に友達やめるって!と思ったけど、観ていくうちに、コルムの中では急じゃなかったんだろうな…と思えてきた。

孤独というのは他人と比較することから生まれると私は思っていて。
極端に言えば、あのパブで全員がひとりで飲んでいたら、誰も孤独だと思わない。
話し相手がいない自分の向こうで、楽しそうに会話をしてるテーブルを見つけ、羨ましいと思うから孤独を感じる。

パードリックにとって問題だったのは、彼にはコルムしかいなかったということ。
コルムはパードリックと離れても、やりたいことがあり、それを分かち合える相手がいくらでもいる。

もしコルムも自分と同じようにずっとひとりきりだったら、パードリックはあそこまで躍起にならなかった気がする。
そしたら退屈で無趣味なパードリックの唯一と言っていい形容詞「良い奴」を失うこともなかったかもしれない。

ドミニクウザイけど、パードリックにドン引きした彼は、まともな感覚をちゃんと持ってるなと思った。
そして、他人と自分を比べない彼は、ひとりぼっちでも、きっと孤独だとは思って無い。

何年後か、また違うタイミングで観た時に今作から何を感じるかで、自分の状態が分かるかもしれないな…と、思いました。

今年いちばん感情を揺さぶられた作品です。まだ2月だけど(笑)

以下ネタバレかも↓↓↓

























パードリックはコルムに優しくなくなったと言うけど、コルムは優しいままだ。

友達をやめたいとは言ったけど、殴られて立ち上がれないパードリックに駆け寄り助けてくれるし、胸糞警官がパードリックの愛するロバを失った悲しみを笑った時に警官を殴ったのはコルムだ。

変わったのはパードリックの方。

犬は外に出しておけ言うパードリックとか、ロバのことは本当に申し訳なく思い懺悔するコルムとか、彼らは動物にとても優しい。土地柄なのだろうか?
それが殺伐とした物語の中で、とても優しい温もりを感じる、絶妙な温度感だった。
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