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イニシェリン島の精霊の都部のレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.6
閉ざされたコミュニティで生じる人間関係の軋轢が齎す居心地の悪さが絶品の本作は、監督の前作『スリー・ビルボード』にも通じる、個人対個人の不通なる価値観の差異に基づくエゴの応酬が繰り広げられる。

その関係を何某のメタファーとして読み取る見方も出来るが、どうやら破綻してしまった交友関係に縋り/突き放す姿勢を取る各々の致命的な話の通じなさ──根本的な人生観の違いそして知能や教養の格差など──にただならぬ哀愁と痛々しさを感じさせる人間劇として面白く、このご破算な人間模様に嫌な既視感を覚えてしまう人間も数少ないだろう。

愚鈍であるパードリックとの実りのない日々に嫌気が差したコルムはその後の人生をある種 人生の痕跡の為に費やそうとするが、その結果として出力されるのは凡百の価値でしかない芸術という、そんな元も子もない展開の連鎖がいたたまれなさを克明にしていく。的確に嫌な気分にさせられるし、次第に悪化していく二人の関係性の摩擦は、人間関係の破綻という現実と地続きの問題に直面するある種の気まずさを重ね重ね訴えてくる。

作中のイニシェリン島は視覚的にも聴覚的にも美を感じられる場所であるが、そうしたそこで繰り広げられる醜悪な価値観の擦れ違いは見るに堪えないの一言。最悪だ。見終わった時に虚脱感に襲われ、溜め息が出るような余韻を残すことは請け合いで、つまり最高ということなのだが、元が戯曲原作なので寓話的すぎるきらいもあってそこは気になった。
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