みゅうみゅう

イニシェリン島の精霊のみゅうみゅうのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

アイルランド好きにはご馳走的映画。ロケ地はアラン諸島!アイルランドの美しい風景、ドン・エンガスの断崖や縦横無尽に走る低い石垣、パブでギネスビールを飲みアイリッシュ音楽のセッションを愉しむ様子もいい。

物語の舞台は架空のイニシェリン島。カレンダーをめくると1923年4月1日、そして対岸で砲弾や銃撃の音が響き、やがてその音は届かなくなり海岸に静けさが戻る。アイルランド紛争は、同年5月で一旦は収束しつつもその後合意に至るまで30年続く…。
それを知っていると、この島内で起きるごく内輪な揉め事が拗れて狂気じみた展開、そしてラストシーンの会話も理解できるのだろう。そしてタイトルの精霊or死神がこの作品のトーンを決めてると思う。

主人公パードリックはいい人、でも音楽家コルムにとっては退屈な相手。話題はロバくらいで、ベートーヴェンをボゥボゥヴェンというほど音楽にも疎いパードリック。本土から音大生が訪ねてくるほどのコルムとは確かに発展的な議論をする事はなかったろう。ウザくて絶交したくなるのもわかるけど。
ただ愛情深い優しいだけのパードリックの執着たるや、尋常じゃなかった。彼らには年齢的な焦りやつきまとう絶望感、紛争の余波もあるだろうし島ゆえの単調で閉塞した空気も漂う。警官や村人の世間話からも多感な若者へ浸潤しているのが伝わる。

唯一の救いが妹のシボーン。知的で冷静で、彼女の衣装(色やシルエット)からきっとこの島に見切りをつけて出ていくだろう〜 そんな希望の色が感じられた。
パードリックを慕う友人のドミニク(発達障害なのかな? 仏語を交えてみたりパードリックよりはまともに会話も楽しめると思うけど)、父から虐待を受ける生活と友人パードリックの変容に絶句しシボーンへの「夢が消えた」ときの絶望の表情、迎える最期。湖での告白シーンがとても切ない。

あとね、動物たちが良い味出してる、特にロバのジェニー。墓標の文字が丸っこくてw
老婆マコーミックがあの棒を持つと死神に見えるから怖い。
コルムの部屋が好き。蓄音機にレコード、世界のお面が飾られていて、中には日本の能面なんかも。全て失って立ち尽くす姿になんだかな〜と思いつつ、アイルランドの風景が壮大で美しくて許してしまう作品。
みゅうみゅう

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