Jun潤

やがて海へと届くのJun潤のレビュー・感想・評価

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
3.5
2022.04.07

岸井ゆきの×浜辺美波。
なんですかこのファンホイホイの組み合わせ。
考えた人は天才ですか。
これは観るしかない。

高級レストランで働く真奈はふと涙を流す。
そんな彼女を訪ねるのは昔の知り合いである遠野。
彼から「すみれ」という女性の実家へ同行することと、遺品整理を頼まれる。
「すみれ」の部屋で一眠りすることにした真奈は、「すみれ」の布団に包まれながら、大学で出会った彼女との日々を回想する。

なんだこの…、モラトリアムの女性を映し出す、キラキラでも儚げでもない、だけど眼球を掴まれて離れられないような映画は。
このような映画を批評する言葉をまだ知らないことがただただ悔しい。

そして岸井ゆきのの確かな存在感。
まだまだこんな、いや個人的には十分活躍されている女優ですが、世間的にはまだあまり知られていない、だけど確固たる演技力を持つ方が、邦画界に埋まっていることにただただ脱帽。

今回浜辺美波と共演したことでさらに輝きが増した気がします。
浜辺美波もまた、今作でさらに一皮剥けていましたね。
浜辺美波の神秘的な雰囲気を放つ清純派な演技と、岸井ゆきのの普遍的で、言葉にするなら現実的な演技。
これらが反発し混ざり合い、映画の新たな魅力を生み出していました。

カメラワークとキャラクター、視点もまた2人の間で対比されていたように感じます。
特に印象的だったのは、長くもないけど短くもない真奈の動作、その始点から終点まで全てを映し出すカメラワークと、それによって描かれる普遍的で限りなく現実の時間に近い人間の姿。
そして視点がすみれに切り替わると、いわゆる作品的なカメラワークになり、神秘的で達観したキャラクター、彼女の持つ人生観に繋がっていました。

物語的には他者に求める自分、そして死んでしまった人を忘れるということ。
共通しているのは深く深く想うことで信頼でき安心して愛せるということ。
すみれは母のような「自分」がない人間、自身もそうなってしまったことを嘆き、自身の「自分」を真奈に求めた。
遺品を整理してすみれを忘れてしまうことを恐れた真奈は、同じように大切な人を亡くした遺族の気持ちに触れ、自分もすみれを忘れつつあることを自覚する。
しかし死んだ人を忘れるというのは安心するということ。
安心して、深く深く愛することで、自分の中に残り続ける。

海へと消えた「自分」、そして他者を想う気持ちは、深く愛することで海へと届き、雲となって雨が降り木々が育ち、今を生きる人に届く。
Jun潤

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