ちろる

乱れ雲のちろるのレビュー・感想・評価

乱れ雲(1967年製作の映画)
3.8
出世街道真っ只中の愛する夫は、出張先であっけなく命を落とした。
私を愛する完璧な夫。お腹には愛する夫の赤ちゃんがいて、幸せの絶頂に奈落の底に突き落とされる。
成瀬監督の遺作とされるこちらの作品はメロドラマ風ドロドロ愛憎劇。
憎い憎い、この世で一番大切な人を奪った男にいつのまにか惹かれてしまう女の心の繊細な動きを演じるのは和服姿が艶めかしい司葉子さん。
そして女の夫を轢き殺してしまう男は勇ましさのある若き加山雄三さん。
正直、美男美女でなければこのややこしい愛は生まれなかっただろう。
これは神様のイタズラか、もしくは亡き夫の采配か。
金というかたちで繋がった関係が、いつしか孤独な心を打ち明けられる唯一の関係になっていく皮肉さ。
朴訥で、硬派な印象の三島がそのある時をキッカケに馴れ馴れしくなる演出は個人的に違和感を感じてちょっといただけなかった。
しかし、そんな三島に静かに惹かれていく司葉子さんの洗練された演技は心を動かされる。
激しい男女の情愛は過去までも打ち消せるのか?という問いに対して、あっけなくその真実を告げる救急サイレンの音が皮肉に響くラスト。
それは虚しさと微かな安心感を同時に感じさせる終わり方でもあった。
*因みに見所は森光子さんのどじょうすくい踊り。
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