ちこちゃん

ラーゲリより愛を込めてのちこちゃんのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
4.0
「人間にもっとも重要なのは、道義です」
主人公山本から子供に託された言葉です。

軍隊というのは、階層で成り立っており、軍曹は権限を持っており、一等兵は絶対的に服従しなければなりません。
ラーゲリ(収容所)に行くと、すべての日本人は囚人であるので、軍隊の身分はなくなるはずですが、軍曹という権限の固執する相沢。この役を桐谷健太さんは、実話の話なので、あるはずもないですが、当て書きではないかと思うぐらいに、権力で固執することで、収容所での絶望から逃れようとする相沢を演じています。権力に固執する相沢は、自分の力で希望を見せることで他者に影響を及ぼしていく山本を認めることができません。それは自分を否定することと同意義であるからです。

自らを卑怯者であると考え、山本のやることを支援したいと思いながら、自分が巻き込まれることを恐れて距離をとる松田を松坂桃李さんが演じています。この配役も素晴らしいです。

足が悪かったために、戦争に行ってないにもかかわらず、捕虜になった純真な新谷を中島健人さんが演じます。山本から字を学びながら、俳句をつくることで生きる希望を持ちます。

山本にロシア文学の素晴らしさを教えた上官であった原は、共産主義の粛清を受け心を閉ざしたところで、山本と再会し、生きる意味をまた見出します。

これら4人と山本の関わりを中心に話が進められます。収容所という過酷であり、絶望しかないところで、何らかの希望を持つことにより、生きようとする姿が描かれます。
権力に頼らず、道義を最重要と考え、他者に影響を及ぼしていく山本は、少し、さわやか過ぎるかもしれません。
妻の北川景子さんが役には、きれいすぎるようにも思いました。
犬のクロちゃんは実在したとのことですが、生き物を使うのは反則です。切なさを倍増させます。

主役の二宮和也さんが、この映画は戦争映画ではなく、戦争後の映画です、と言われておるように、戦争による悲惨さだけに注目すると、それ以外の見るべきところを見逃してしまうような気もします。
極限の状態にあるからこそ浮かびあがる人間の弱さ、そこから起こる裏切りや沈黙、他者への威圧、それらをこの映画は描いているように思いました。

様々な情報に翻弄され、格差が拡大している今、我々はどれぐらい道義を大切にしていますでしょうか。
「最後に残るのは道義です」という言葉がこころに残りました。
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