アキラナウェイ

ラーゲリより愛を込めてのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.7
辺見じゅん原作のノンフィクション「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を映画化。

戦争が終わっても、故郷の地を踏む事を許されない者達。特に戦犯扱いで重罪を課せられた者については、ダモイ(帰国)の日が更に遠のく。終わりの見えない過酷な収容所生活。希望を絶やさず、一同の精神的支柱になった男がいた—— 。

第2次世界大戦が終結した1945年。シベリアの強制収容所では、ソ連軍の捕虜となった多くの日本軍兵士達が収容されていた。零下40度という過酷な状況下で重労働を強いられる彼ら。そんな中、山本幡男(二宮和也)は生きる希望を捨てないよう訴え続けた—— 。

ニノの演技が上手いのは百も承知。流石、クリント・イーストウッドに見初められたジャニーズである。普段は飄々としている彼が、スクリーンの中では別人のように豹変する。咽頭癌を患い、声が掠れしゃがれた様子に感心した。

安田顕さんの演技も素晴らしかった。生きる希望が完全に潰えた表情。その目は光を失い、死んでいるように生きている捕虜を見事に体現していた。

中島健人くんは脚が悪い青年を演じていたが、くるぶしが地面に付くのではないかという程、足首を90度近く曲げての歩行は、さぞ痛みを伴ったに違いないと思ったが、何か仕掛けがあるのだろうか。

山本が妻と交わした、「必ず帰る」という約束。妻モジミ(北川景子)は気丈にその約束を信じ待ち続けた。しかし、その希望が絶望に変わった瞬間の慟哭。その感情の振り幅の演技を目の当たりにし、これまで北川景子を見縊(みくび)っていたようで、申し訳なかった。

過酷な収容所生活には言葉を失くした。

そして遺書を記憶した4人の語り部達が山本の家族へ伝聞するという終盤はただひたすらに涙が溢れた。

とても良い作品だけど、満州でソ連からの空襲に遭う場面はセットでの撮影というのが丸わかりだし、上から大きなコンクリート片が落ちてくるにしても、如何にも軽そうな作り物。序盤のこのシーンだけが朝ドラクオリティ。終盤の山本家もセット感丸出しだったし、演出も含め所々チープに感じてしまったのは残念。

「よーく、覚えておくんだよ」

何気ない毎日を。
何となく見上げた空を。
今日という日がかけがえのない1日である事を。

戦後11年もの間、運命に翻弄され、出口の見えない日々を過ごした彼らの事も覚えておかねばなるまい。