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ラーゲリより愛を込めてのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

うーん悪くはないし確かに泣けるのだが、どうにものめり込めなかった。

テンポが良くサクサクと物語は進んでいくのだが、果たしてこの題材にこのテンポの良さは正しいのだろうか。一つも飛ばしていないのに、ずっとダイジェスト映像を見せられているかのようだった。必要なエピソードはちゃんと入っているが、必要なエピソードしか無いというか。薄っすい。余白がない。実力派の役者陣のおかげで観ていられるが、脚本としては人間関係の描き方が少し薄くないか。山本(二宮和也)のために、松田(松坂桃李)がストライキを開始するシーンの唐突さ。相沢(桐谷健太)や原(安田顕)が、山本の説得で心を動かされる展開の呆気なさ。原が見せしめのように酷い目に合っていた件も、いつの間にか無かったことになっている。犬のクロもここぞというときに出てくるが、それ以外のシーンでは一切存在感がない。全ての登場人物は物語のために用意された書き割りでしかないし、各シーンも完全に独立しており、まさにダイジェスト版を見ているかのよう。最低でも、主人公である山本が周りに慕われていく過程はもうちょっと説得力を持たせなきゃいけなかっただろうに。山本は聖人すぎて人間味がなさすぎるし。

あと全体的に映像が非常に安っぽい。あそこまでレベルの低い映像しか作れないなら、冒頭の空襲シーンなんか削ればいいのに(戦時中に満州で日本人が派手な結婚式をしているシーンってノイズでしかないんだが)。CGももちろんそうなのだが、屋外ロケをしているはずの場面でも不思議ととっても安っぽい。作り物感まるだしで、収容所の過酷さがまるで伝わってこない(それなりに清潔で健康的で楽しそう)。寒さもひもじさも、それを説明するシーンがご丁寧に入るだけで映像として見せる気はさらさらない。衣装もメイクもセットもチープ。テレビドラマの映像クオリティ。まぁテレビ局が制作してる映画だもんな。エンディングで流行りのJ-POPが流れ出す感じもザ・テレビで、感動が帳消し。

ストーリーは悪くない。まずシベリア勾留という題材のチョイスが良いし、ラストの4回連続で泣かせにかかる演出はあざと過ぎるがそりゃ泣く。山本が死ぬシーンのサラッと感も好み。寺尾聰のエピローグは蛇足。

とにかくラスト以外が全てあっさりと通り過ぎてしまう映画。お話をなぞるだけで、全然心に響かない。役者は頑張っていたが、演出の実力不足を感じた。この監督はいくつか観たが、いつもそんな感じ。MVPは安田顕で。
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