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ブラック・フォンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ブラック・フォン(2022年製作の映画)
3.8
 正直、あんなフォームではあのスピードは出ないよとツッコミを入れたくなったものの、被害者だらけ(とも言えないか)のジュブナイルな少年たちの因果を軽やかに繋ぎ、曰くありげな父親(退役軍人で原発労働者!!)や可愛い妹、そしてステキな片思いを続けるクラスで人気者の少女の紹介まで過不足なく展開する前半45分間の演出のキレはなかなか鮮やかで、ひょっとするとこれは、と思ったものの、やっぱりひょっとしなかったブラムハウス・プロダクションズ最新作。コロラド州の田舎町はなにしろ『ハロウィン』のような街並みをしている。あちらはイリノイ州にある「ハドンフィールド」という田舎町で事件は起こったが、こちらは街をうろつく黒いバンが何やら怪しい雰囲気を醸し出している。フィニー少年(メイソン・テムズ)の父親がいかにも「ゾディアック事件」の犯人のようにミス・リードする辺りも(誰が犯人だか未だにわからないけど)、その後の風船男の鮮やかな手口は『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を彷彿とさせると思ったら、スティーブン・キングのご子息であるジョー・ヒル原作だったのねと。どういうわけかフィニー少年を力でねじ伏せたわんぱくキッズばかりが相次いで狙われる様は父親へのミス・リードだけなのか?この人さらいは明らかに大人の様な力を振るい始めた男の子をターゲットにする変わった嗜好の持ち主で、実は劇中にも彼の処刑シーンが一度も出て来ないというそれはそれはレアな映画なのだ。

 それでも地下に監禁した辺りから問答無用に怖くなる。1人も殺した描写がないのにそう感じるのは、これまでのホラー映画の描写の積み重ねが頭に入っているからだ。つまり今作は様々なホラー映画の雰囲気を選りすぐり抽出した「枠」の映画なのだ。ジュブナイルで孤独ないじめられっ子はただでさえ居場所がないのに、わけの分からない男に無理矢理地下室に閉じ込められる。しかもわけの分からない仮面を付けた(上半分と下半分と全体の3種類あり)イーサン・ホークはフィニー少年をなかなか殺しに来ない。これまでの殺し方も開示されないからか、この人は恐怖に怯える少年をひとしきり監視した後、殺すのだと読むのだが、それにしても何もしに来ないね。むしろ逃げるのを待って追いかけるのが好きな「逃走中」おじさんなのかもしれない。たまに朝食を運ぶ時だけだから刑務所の刑務官とほぼ同じ回数。何ちょっと下宿のおじさんかよと。あぁこれはまったく楽しんでないね、シリアル・キラーの風上にも置けないねと思ったら、今作のタイトルともなった地下室の構造が目に留まる。監禁モノの滋味の多くは監禁者の並外れた知恵と勇気の賜物なのだけど、今作はやけにフィニー少年に対する見えないサポートが多い。本来なら『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のようなみんなで力を合わせてが出来ないものだから、逆にイーサン・ホークが主人公に呼吸を合わせようとしている。ただの面白おじさんと化している。しかも監禁者の前ではあんなレザーフェイス以上にゴージャスな仮面3種を外して、素顔で良くないかなどと優雅なツッコミを入れたくなるほどで、ジョン・ウェイン・ゲーシーの怖さはこんなもんではないでしょと。イーサン・ホークももう少し見せ場をと言った方が良かったんじゃ。
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