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ブラック・フォンのSPNminacoのレビュー・感想・評価

ブラック・フォン(2022年製作の映画)
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ちょっと『IT』っぽい既視感を徐々にズラして、あるようでなかった新味のジュブナイル・ホラーだった。『悪魔のいけにえ』が公開された78年デンバーの、陰気で不穏なムードがまず怖い。そこに暴力とマチズモ、父親の支配が更に陰鬱。気弱なフィニーと気の強い妹は、学校や家庭で既に毎日がサヴァイバルだ。そして他の子どもたちも。
ジャンプスケアや脅かし音楽は控えめ、代わりに鳴り響く電話のベル。地下室の広さと静けさがその音を引き立てるし、あのくらいの空間が必要だった。一人ぼっちのサヴァイバルにそれ以外の存在がいること、本当は一人じゃないことを見せるために。
ていうか、あの場所は野球場。これはチーム戦なのだ(妹は選手ではない)。仲間の送りバントで、あるいはサインを受けて一つずつ進塁し、最後ホームランをかっ飛ばして(そのための素振り!)、ホーム=家に帰るのがベースボール。そこが良く出来ていて好き。
ベースボールは父子を象徴するモチーフでもある。同じ格好で家長の椅子にいるグラバーとフィニーの父親は恐怖の対象、グラバーを倒すことで父の恐怖も終わる。また、兄妹がTVで観てたのは『ティングラー/背すじに潜む恐怖』(1959)で、声を出せない人が犠牲になる場面(映画自体はトンデモ珍妙なんだが)。虐めや抑圧に声を上げられなかったフィニーが、届かなかった「声」を聞いて戦う展開にシンクロしてるのも細かい。あと、電話と地下室といえば、そこで『羊たちの沈黙』かー。
クールな顔つきのメイソン・テムズと、三つ編みおさげマデリーン・マックグロウの仲良し兄妹がとても良かった。イーサン・ホークは枯れすぎて怖くないし、風船やマスクには特に拘りなかったけどそれでいいと思う。
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