盥

時代革命の盥のレビュー・感想・評価

時代革命(2021年製作の映画)
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星はつけられない。作品として面白いとか面白くないとか、そういう尺度で見るべき作品ではないと思うので。

英国と中国の間で交わされた一国二制度を無視して、共産党の支配が行われている香港における大規模デモを、その内部から描いたドキュメンタリーです。

中国共産党に問題があるのは明白で、犯罪人引き渡し条約が施行され、普通選挙を行うという市民との約束は踏みにじられ、国安法で多数の逮捕を強行する。

デモ隊はやがて議会占拠、道路封鎖、大学占拠などを実行するが、(映像を見る限り)過激化にブレーキをかける最終的な自制心みたいなものがある。暴徒化しない(火炎瓶は投げるけど、破壊そのものが目的ではない)。その抑制的な行動には、素直に感服する。

一方、中国共産党や香港特別行政区の腐敗は目を瞠るものがある。警察にも腐敗が横行しているのをカメラは幾度となく捉える(マフィアと手を組んでデモ隊に暴行した疑惑がある)

この作品は2つの立場(民主主義と権威主義)の闘いを描いた作品なので、権力側の主張や発言が描かれていないのは片手落ちだともいえる。デモ隊の立場のみに立ったプロパガンダだ、という批判はあるかもしれない。

しかし、どう考えても中国共産党や香港特別行政区や警官隊の誰かにインタビューを行ったところで、表面的で保身に走った発言しかないのは容易に想像できるので、この場合はしょうがないだろう。

そして、デモ側の「普通選挙を行わせろ」というのはどう考えても真摯で真っ当な要求であるとしか思えない。

逆に、普通選挙を行う意義を否定できる合理的・理性的な意見があれば伺いたいものだが、当然、権力側から何も言明がない。「支配するのに普通選挙は都合が悪い」以外に理由が存在しないからだろう。

片方の主張が欠落しているという意味では、これは不完全なドキュメンタリーなのだが、しかし、デモ隊側の意見に自分としては全面的に賛同するし、この作品の社会的な意義も支持したい。
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