第三帝国国家保安本部長官、ラインハルト・ハイドリヒ。彼は夢を見た。大層な肩書きを持った凡愚に過ぎない自分が歓喜の笑みを浮かべ、何者かと対峙する夢を。そんな折、彼は要人暗殺未遂事件の首謀者と目される男、カール・クラフトとの邂逅を果たす。その瞬間から彼に纏わりつく感覚――狂おしく胸を焼く奇怪な想いの正体、既に何度も“それを”繰り返してきたという“既知”であった。彼らは友誼を結び、ひとつの誓いを立てる。終わることのない繰り返し、既知感の打破を。ディエス・イレ、新世界の開闢の祝福を。
藤井蓮はかつての親友との大喧嘩により決別し、結果長期入院を余儀なくされる。退院後、幼馴染みの綾瀬香純に誘われ立ち寄った博物館にて出会った謎の少女、その少女が黄昏の浜辺で口ずさむおぞましきギロチンの歌、大群衆の中自らが処刑される夢……。様々な出来事が蓮の日常への回帰を認めない。追い打ちをかけるように、諏訪原市で首切り殺人事件が起こる。嫌な感覚を覚える蓮を嘲笑うかのように混乱の裏側で闇が蠢き出す。第三帝国が生み出した魔人たちは諏訪原市にて誓いの言葉を言祝ぐ。「我らに勝利を与え給え」――と。
諏訪原市で起こる連続殺人事件は止まることを知らない。自分がギロチンで処刑される夢を見る度、事件が起きている……そんな奇妙な一致を蓮は一笑に付すことができない。そんな折、玲愛の名付け親だという神父、トリファと出会う。別れ際に投げかけられた問いを境に彼の日常は終わりを告げた。恐るべき第三帝国の魔人たち。為す術もなく翻弄される蓮は相手の気まぐれにより、かろうじて命を拾う。それでも頑なに日常を守ろうとする彼は翌日も“いつものように”学校へと向かう。しかし、そこには昨夜の魔人たちの姿が……。
魔人の一人であるルサルカが学園に現れた。蓮はまるで普通の女子高生のような会話に終始する彼女の前にその真意を掴むことができない。そんな底の見えない不気味さが日常を浸食し、ずっと一緒だったはずの幼馴染み、綾瀬香純の様子も徐々におかしくなっていく。不吉な空気を拭うため、街へと繰り出す二人。香純からカドゥケウスのペンダントをプレゼントされた瞬間、蓮の意識は暗転する。見失ってしまった香純を探す蓮は連続殺人事件の犯人を図らずも見つけてしまう。しかし、その正体は蓮には受け入れがたいもので……。
ついに聖遺物を身に宿し、戦うための刃を手に入れた蓮。しかし、今の蓮では衝動を抑えることで精一杯で十二分に制御できない。見かねた螢は蓮に指南を施す。その中で様々な事実――聖槍十三騎士団黒円卓、カール・クラフト、様々な魔術位階を知ることとなる。不本意ながら、螢の助力により確かな手応えを掴みつつある蓮。しかし、そんな安心も束の間、香純が何者かに攫われてしまう。敵として現れた黒円卓の一人を前に蓮は我を忘れて、襲いかかる。大きな実力差の前に蓮は――。
シュピーネとの激闘後、眠ってしまった蓮が目を覚ましたとき、隣には夢に出たギロチンの少女マリィが全裸で眠っていた。それを見て怒り狂う香純を宥めつつ、三人で街へと繰り出す。昨夜の出来事がまるで嘘のような日常を謳歌する三人。けれど、束の間の休息の終わりは既に目前まで迫っていた。マリィを武器として使うことに罪悪感を抱く蓮に対して彼女はそれでも構わないと告げる。自分の意思というものが見えないマリィを説得する時間もなく事態は加速度的に進行していく。流れに逆らうこともできず、蓮はマリィを使い戦いに身を投じる。
黒円卓との戦いに駆けつけたのはかつて決別したはずの親友遊佐司狼だった。ヴィルヘルムの苛烈な攻撃にも対応してみせる彼を目にして、蓮は螢との対決に集中する。互角の戦いを見せる蓮であったが、突如現れた圧倒的な存在感の前に決死の逃亡を図る。螢を突き飛ばし、後はひたすら駆け抜けるだけ――というところで何者かが行く手を阻む。その正体は蓮も知る人の良さそうな神父、ヴァレリア・トリファであった。動揺する彼に追い打ちをかけるように最強の敵が姿を現す。その途方もない実力差の前に蓮とマリィは為す術もなく……。
目を覚まし、地下に拘束されていることに気付く蓮。近づく足音に身体を強ばらせるが、その正体は見知った人間、氷室玲愛だった。玲愛がいるという事実に安堵して蓮は笑みをこぼす。しかし、玲愛は自分に向けられるその信頼を素直に受け取ることができず、反発してしまう。逃げるように立ち去る玲愛と入れ替わりでトリファが顔を見せる。そして案内された先の場所で蓮はとうとう黒円卓の首領ラインハルトと対面する。彼の語る覇道を否定し、明確な敵対の意志をたたきつける蓮。その意気や良しと笑うラインハルトから蓮はマリィを取り戻す。
八つのスワスチカを開き、黄金錬成を完成させる――それが聖槍十三騎士団、ラインハルトの目的だった。二つが開き、残るスワスチカは六つ。全てを守ることができない蓮は苦悩しながらも最も日常が色濃く残る学校を選択する。しかし、学校には螢やルサルカの姿はなく、幽鬼のように徘徊する生徒で溢れていた。そして、クラブ、ボトムレスピット――先ほどまで蓮がいた場所ではルサルカによる虐殺が行われていた。司狼とエリーは臆することなく対峙するが聖遺物を持たない二人が敵うはずもなく――。
かつて第三帝国では生命の泉と呼ばれる組織が存在し、優生学に基づく研究を行っていた。リザ・ブレンナーはそこに身を置き、超人を人為的に生み出す研究を行う。しかし、行き過ぎた研究は人体実験にまで手を伸ばさせ、彼女にとって残酷な結果が突きつけられる。リザは失った人を取り戻すため黒円卓に参加し、スワスチカを開こうとする。彼女に人殺しはさせられないと立ち塞がる蓮であったが、螢の参戦により突破を許してしまう。語られる螢の望みを蓮は真っ向から否定する。思想が噛み合わない蓮と螢との戦いに乱入する影が……。
ラインハルトの宿願のため、蓮と対決するエレオノーレ。圧倒的な実力を持って翻弄し、嬲り、追い詰めていく。懸命に追い縋る蓮であったが、周囲の人々を守るため強力な一撃の直撃を受け、気絶してしまう。なおも追撃しようとするエレオノーレの前にマリィが立ち塞がる。容赦ない攻撃を受け、これまで自分を守ってくれた人たちが抱える痛みを理解していく彼女は、それでもまだなお、強大な敵の前に立ち続ける。そんなマリィの気概を受け、蓮は立ち上がる。二人は誓い合う――共に力を合わせて、日常に戻るのだと。
メルクリウスは自滅因子について語る。曰く、滅びの願望が具現化した存在だと。物事の裏表のように、大切な日常を守りたいという気持ちの裏側で、マヤカシの日常を壊したいという願いがあるように。メルクリウスにとってのラインハルトがそうであるように、彼にとっての彼がそうであるように。それは、神のオモチャにすぎない。だからこそ、死ぬことは許されない。故に彼は既知感から逃れられず、彼と破滅的な友情を築く。そう、まるでそれまでの日常が終わりを告げた、あの日のように――。