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「艦これ」いつかあの海での都部のレビュー・感想・評価

「艦これ」いつかあの海で(2022年製作のアニメ)
1.2
プラウザゲームとしてあえて想像の余地を残した曖昧模糊な世界観で縦軸が求められる物語形式のアニメを作るのは、しかしやはり難しいという大きな問題点の自認を迫られる本作は、物議を醸した前作以上に構成要素の歯抜けの多さを感じさせるまぎれもない駄作である。

物語の世界観が最後の最後まで曖昧模糊としている──闘争/戦争を巡る物語を語る上で、この致命的な欠点はあまりにも大きく『艦娘とは?』『深海棲艦とは?』『なぜ戦うのか?』『なぜ彼女たちでなくてはならないのか?』『そしてそれによりなにが変わるのか』などの、登場人物の作劇上の指針やそこに宿る目的意識すらも満足に読み取れない物語に共感や感動を覚えるのが土台無理な話だろう。

艦船とそれを巡る史実という元ネタ頼りのエモーショナルは表面的な感動に過ぎず、作品の中だけで完結するドラマ性のなさや登場人物の感情の機微などに無頓着に思えるストーリーは、味気なく淡々と進行していくばかりで無味無臭に等しい。打倒するべき敵役である深海棲艦の目的や野望もあくまで一面的に語られるだけで、艦娘たちが対立する相手としての魅力と奥行きに欠けており、脚本に付き従う形で勝敗を決めるまでの事務処理的な戦闘におよそ熱らしきものは感じられないのもある。

なら語り部である時雨のドラマは最低限の縦軸が舗装されているかといえばそれすらなく、突如思い出したように原作の台詞をそのまま発する為の舞台装置めいた役回りなのは残念だった。というか艦娘同士で会話として成立してないダイアローグが回を追うごとに増えていき、そこでなんとなく言わせたいような台詞だけで話を回してるのは狂気的だ。

作画は安定していたのでやはり勿体ないと思うし、キャラクターコンテンツとしての妙すらも狙いすましたように取り零している本作は前作以上の不出来を晒しているのは明白である。

メディアミックス化にあたり改変要素を組み込むことで物語としてそれを上等にさせることは幾らでも出来たはずなのに、それをまったくせずに表面的なシリアスを演じるだけの物語を何処を面白がるべきなのか。そもそもシリアスな作風として話を通したいなら轟沈描写を避けるのは逃げじゃなかろうかという文句もあるので、この作風の定まらなさを最後の最後まで解消出来ずに終わってしまった節はある。
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