時は幕末。新時代の到来を予感させた激動の時代。 横浜の地で、侍と外国人の喧嘩に巻き込まれた子どもたちを救ったことから、秋月耀次郎は遊山赫乃丈率いる旅一座と出会う。 「高座より御免を蒙りましてご挨拶申し上げます!」 だが、この旅一座の真の狙いは「敵討ち」の相手を捜すことにあった。やがて、横浜の裏社会で行われる闇のオークションに、仇の男が現れるという情報を入手した一座は、会場内に潜入。霊刀「月涙刀」に導かれた耀次郎もまた、会場へと向かっていた。はたして、闇のオークションの目玉商品として出品されていたのは、手にする者に天下を与えるとされる「覇者の首」であった…!
炎上した闇のオークション会場内にて、仇敵・針尾玄藩を取り逃がしてしまった赫乃丈一座であったが、針尾が長岡藩士・河井継之助の護衛役を担っているという情報を得る。 はたして、長岡藩へとガトリング砲を搬送する河井たち一行の中に、針尾の姿はあった。江戸へと向かう山中の街道を決戦の舞台に選んだ赫乃丈一座は、積年の恨みを晴らすべく、仇敵の到着を待つ。やがて、朝霧の中に河井の一団が現れる。 助太刀を買って出た耀次郎も加わり、赫乃丈一座、悲願の仇討ち舞台の幕が上がる! 「念願かなって演じるは、遊山赫乃丈仇討ち舞台!」
一座悲願の仇討ちは成った。一座に安堵感が漂う。 だが、座付き作者・茨木蒼鉄が描いた次回作は、赫乃丈の両親暗殺を演目にしたものだった。復讐劇は終わったはずだと抗議する赫乃丈。しかし、蒼鉄はまだ何も終わってはいない針尾玄藩の後ろにこそ真の敵は居ると告げる。そして、新作芝居にその名を載せ、おびき寄せる作戦を提案する。 「何事も表があれば、裏もある。恐れながら天下の御政道もこれまた同じ!」 横浜遊郭の絢爛豪華な花魁道中に加わり、新作芝居の宣伝をする赫乃丈一座。 だが、高らかに口上を述べる赫乃丈の姿を、ひとつの銃口が静かに狙っていた。
蒼鉄が書き起こした新作芝居は、横浜の街で大反響を呼ぶ。 だが、復讐劇の真の仇・中居屋重兵衛は、一座の芝居を阻止するべく、第二の刺客を放った。耀次郎を用心棒に迎えた赫乃丈一座も、これを迎え撃つ。 「秋月様。皆の命、あなたにお預けいたします」 敵の得物は飛び道具。果たして、一座は無事芝居の幕を開けられるのか? かくして、張り詰めた緊張感の中で、開演を告げる柝が鳴り響くのだった――。
耀次郎の活躍で暗殺者の襲撃を退けた赫乃丈一座。計画を阻止された中居屋は「覇者の首」の呪力によって、最強の刺客を作り出す。 一方、遊郭「石鶴楼」の饗宴に招かれた赫乃丈一座は、庭先に設けられた舞台で華麗な演舞を披露していた。動乱の世を忘れさせるかのような、束の間の華やかな彩り。 官軍との交渉に奔走していた勝や、英国大使パークスの顔にも笑みが浮かぶ。 だが、そのとき、中居屋の放った刺客たちが、「石鶴楼」を襲う! 「守霊鬼!? こやつら・・・すでに人に非ず!」
中居屋が放った守霊鬼の「石鶴楼」襲撃から明けて翌日。 遂に蒼鉄が真の仇、中居屋重兵衛の名を台本に載せた。仇討ち芝居の終幕に向けて、気合が入る一同。だが、耀次郎は蒼鉄の中に潜む不穏な企みに気付きはじめていた。 そんな折、「石鶴楼」に立て篭もっていた「天狗党」の反乱が起こる。イギリス軍が鎮圧に出動し、華やかだった遊郭は、炎上する戦場に変わる。 そして、千秋楽を迎えた一座の元にも、再び守霊鬼の襲撃が――! 「今こそ見せます、演じます! 遊山赫乃丈仇討ち舞台の晴れ姿!」
中居屋が放った守霊鬼の襲撃から一月。 蒼鉄の姿は、秋月の故郷、高麗の里にあった。山裾に穿たれた登り窯で、何度も何度も真剣に注文を繰り返す蒼鉄。一方、品川の薩摩屋敷では東征軍の江戸攻めを前に西郷隆盛を訪ねた勝海舟との直接会談がとり行われようとしていた。 江戸を戦場とするか否か。「江戸城無血開城」という形で、平和的結論が導き出されようとしたそのとき、突如、薩摩屋敷に「覇者の首」を携えた中居屋が現れる。 「これは、これは、役者がお揃いのようで…」 不気味に笑う覇者の首。江戸の運命やいかに!?
中居屋が持ち込んだ覇者の首の呪力にあてられた勝と西郷は、己が本性を剥き出しにして斬り結ぶ。動乱の世に、真の宿り主を求めた覇者の首が不気味に哄笑う。覇者の首封印の命を受けた耀次郎も、魔の波動を追い、勝と西郷の会談場所を目指すが、その行く手に、神無が立ち塞がる! 一方、蒼鉄からの指示で、ええじゃないか踊りに紛れて薩摩屋敷に潜入した赫乃丈一座の面々は裏疑獄の背後にいた真の仇、中居屋重兵衛との邂逅を見る。 「かような場所で、横浜随一の人気一座にお会いできるとは…」 今、十年の時を経て、遊山赫乃丈一座、積年の恨み果たすべく妖商に立ち向かう!
江戸城不戦開城に不満を抱く、旧幕臣派は上野の寛永寺に立て篭っていた。まさに風雲急。 その頃、横浜港に寄港したグラバーの船からひとりの女性が降り立つ。それは、耀次郎を訪ねて潮座へとやって来た、坂本竜馬の妻、おりょうであった。だが、秋月の姿はすでに横浜になく江戸の町にあった。東征軍が占領した江戸の町で、官軍兵士と戦うひとりの侍を助ける耀次郎。それは、病に侵され、死に場所を求めて彷徨う沖田総司であった。 そして、遂に、上野寛永寺において、彰義隊と東征軍との戦いが火蓋を切る。 死に場所を求めた沖田もまた、寛永寺に向かう――! 「死ぬな…、死ぬな、沖田さん!!」 降りしきる雨の中を、浅葱色のだんだら羽織が揺れていた…。
慶応四年五月十五日、未明。上野・寛永寺において遂に、彰義隊と東征軍とがぶつかり合う! 戦場に向かおうとする沖田を必死に食い止めようとする耀次郎。 その頃、東征軍の新型兵器と共に、おりょうもまた江戸へと辿り着く。戦火に煙る上野山を見上げ、嘆くおりょう。 「早すぎたよ、龍さん。龍さんが生きていたら、こんなことには…!」 降りしきる雨の中、死に場所を求め虚ろに揺れる沖田の視線の向こうで、怪しい黒猫が死を誘うかのように、不気味に鳴くのだった…。
新作芝居は、江戸の地で。龍馬の妻・おりょうによって届けられた蒼鉄からの台本を頼りに、赫乃丈一座は品川宿へとやって来た。町火消し、新門辰五郎の協力を得て、仮設舞台を建てる一同。一方、品川沖に停泊する榎本艦隊の船上に、蒼鉄の姿はあった。そして、戦費が整わず、未だ出航できない榎本武揚の前に現れた、その男とは…。 「どうやら首の奴めも、まだまだ死なせたくないようでして…」 練習中の一座の舞台を、薩摩屋敷で耀次郎を襲った謎の幻影兵士が襲う――!
蒼鉄が書き起こした新作芝居は、二千年もの永きに渡り繰り広げられてきた「覇者の首」と「永遠の刺客」との死闘の物語であった。江戸の地でも評判となる一座の舞台。 品川の地で耀次郎に再会した赫乃丈は、おりょうから託された坂本龍馬の言葉を伝える。龍馬を護れなかったことを今も悔いる耀次郎に明かされる真実…。そのとき、「月涙刀」が「覇者の首」の魔力を探知する。薩摩屋敷より「首」を持ち去った蒼鉄を追う神無も駆けつけ、耀次郎、神無、蒼鉄の三人が再びまみえる! 「各々が役割、しかと見届けた。されば、もう一筆加えて……」 戯作者・蒼鉄が描く筋書きや、いかに…!?
蒼鉄から届いた新たな台本。そこには、役者として中居屋重兵衛、秋月耀次郎の名が記されていた。 驚く一同。果たしてふたりは舞台に上がるのか? その頃、英国公使パークスは、四人の兵士たちに「覇者の首」破壊の命令を下していた。一方、海上では、出航を前に、榎本武揚が最後の決断を下しかねていた。 「中居屋重兵衛死すとも、『覇者の首』が怨念と災いは消えぬ! この世の地獄は消えぬのだあっ!!」 品川沖を舞台に、一座本懐の仇討ち舞台、そして「覇者の首」封印の瞬間(とき)が訪れようとしていた――!
尊い犠牲の元、一座念願の仇討ちは遂に果たされた。仲間を失った哀しみを乗り越え、一座は、それぞれの道を歩き出そうとしていた。一方、またしても「覇者の首」封印を果たせなかった耀次郎は北へと向かった「覇者の首」を追い、旅路を急ぐ。一座の解散を決意した赫乃丈もまた、己が想いを見極めようと、耀次郎の後を追う。 「わたしは……ただ確かめたいだけ。自分の気持ちを…」 それぞれの思いを胸に、耀次郎が、赫乃丈が、蒼鉄が、神無が旅立つ! 慶応四年八月。戦火は、男たち、女たち、そして、この国の命運を賭けて、さらに北へと広がろうとしていた…。
一座と別れた耀次郎と赫乃丈の姿は、日光街道にあった。鳥羽・伏見から広がった戊辰の戦火は北へと拡大し、下野国(現・栃木県)宇都宮宿もまた、焦土と化していた。 だが、そこに暮らす人々は健気に力強く生き、木賃宿に響く旅芸人の小唄に乗せて、赫乃丈の舞が人々に束の間の笑顔をもたらす。そんな折、耀次郎のもとに聖天からの密書が届いた。 「東照大権現様が御霊屋 探索の要あり 直ちに訪なふべし」 『覇者の首』解放の謎を解き明かさんと、耀次郎は東照宮を目指す!
迫る新政府軍を迎え撃たんとする会津藩は、少年や老人、女性たちまでが城に立て篭もり、徹底抗戦の構えを見せる。会津から米沢へと抜けようとする耀次郎と赫乃丈は新政府軍に追われる白虎隊士の少年に出会う。彼らの窮地を救ったのは、新撰組副長として勇名を馳せた土方歳三だった。持ち場を離れて山中をさ迷う少年の行き先を詰問する土方。しかし、少年は断固としてその目的を語ろうとはしないのだった――。 「持ち場を離れる者は、たとえ味方といえど、この土方歳三が斬る!」
仙台・松島湾に榎本率いる旧幕府艦隊が入港する。仙台城では、奥羽越列藩同盟の諸藩の代表者が集まり軍議が開かれていた。しかし、新政府軍の猛攻の前に、彼らの戦意は阻喪明らかに及び腰だ。そんな態度に業を煮やした土方は憤慨し席を蹴る。その姿を、胸に一物の蒼鉄が見やる。 「我が軍には、荒事の似合う歌舞伎者が欲しいのです…」 一方、東照宮にて見つけたもう一本の月涙刀に自らが選ばれたと確信した赫乃丈は、耀次郎との運命を再認識し始める。だが、耀次郎はそんな彼女を冷たく引き離そうとするのだった…。
仙台藩は遂に新政府軍へ恭順の方針を決定、旧幕府軍は仙台からの撤退を余儀なくされる。戦う意思のある兵士たちは、松島湾に停泊する旧幕府艦隊の元に集結する。彼らを収容する開陽丸の前に、パークスによって『覇者の首』殲滅の命を受けたチーム神無が操る艦が突っ込んできた! 混乱する開陽丸の甲板で、遂に、耀次郎、赫乃丈が、「首」にとり憑かれた榎本と対峙する! 「『覇者の首』、封印――!!」 耀次郎と赫乃丈の月涙刀が『覇者の首』を前に妖しく輝く――!
松島湾を出奔した旧幕府艦隊は、最果ての地、蝦夷へと辿り付く。彼らが最後の希望を託した天地。そこは、大雪に覆われた極寒の大地であった。箱館へ入った土方一行は、五稜郭を拠点に蝦夷地攻略の策を練る。一方、領国を追われた松前藩士は「遊軍隊」を組織、起死回生を図る。高松凌雲が取り仕切る箱館病院。そこには、秋月を失い失意に暮れる赫乃丈の姿があった。 「私が分からなかったのは、私たちの運命…。その真なるところ…」
「覇者の首」が取り憑いた榎本武揚率いる旧幕府軍は、蝦夷での支配権獲得のため、遂に松前城攻略の火蓋を切って落とした。最果ての地に流れ着いた旧幕府軍は、「共和国」の樹立を宣言。総裁となった榎本武揚の傍らには、世界をにらむ戯作者・茨木蒼鉄の姿があった…! 「幕は、まだまだ先の先。我が共和国は蝦夷のみにあらず…!」 蒼鉄の見つめる先やいかに・・・!?
共和国軍海軍奉行・荒井郁之助は横浜にてひとりの男と接触を図る。旧薩摩藩士・黒田了介。東征軍参謀を務める彼が提示したのは、最新鋭軍艦「ストーンウォール号」ともどもの共和国への亡命であった! いぶかしがる蒼鉄。だが、旗艦「開陽丸」を失い制海権を脅かされることを恐れた共和国政府は、ストーンウォール号受け取りのため、「回天」「高雄」「蟠龍」の三隻を出航させる。艦隊は土方を隊長に、宮古湾で待つ、黒田の元へ・・・。 「この黒田了介を、蝦夷共和国は欲しくはないか!?」
蝦夷を平定し、新国家設立の野望を抱く共和国政府の背後より、春を待たず新政府軍の奇襲作戦が開始される。総攻撃前の陽動作戦かと、いきり立つ共和国幹部たち。榎本武揚は自ら兵を率い、これを断固として叩くことを宣言する。 一方、一座が勢揃いし、耀次郎の無事を信じる赫乃丈にも笑顔が戻りつつあった。そんな折、蒼鉄は彼女を北の戦場へといざなう。蒼鉄は語る。今こそ己が宿命を知るときであると…。 「秋月様を導く…? あたしが…?」 「覇者の首」がとり憑いた榎本武揚の前に再び、耀次郎と月涙刀が立ち塞がる!
「覇者の首」がとり憑いた榎本武揚暗殺の使命を果たせなかった神無たち特殊部隊は、パークスに階級を剥奪され、任務解除を命じられた。唯一の存在意義であった大英帝国からも見放され、途方に暮れる神無。 そこには、双子の兄を失い、失意に暮れるクイーンの姿も共にあった。 「俺には痛みさえ無い…。もしかしたら、俺は泣いているんじゃないのか…?」 己が誇りを取り戻すために、チーム神無は今再び箱館の地を目指す。 是が非でも榎本武揚の命を奪うために…。
「覇者の首」の魔力を目の当たりにした土方は、蒼鉄の底知れぬ野心に脅威を覚える。その脅威は民衆達の間にも見えない形で浸透し、少しずつ蝦夷共和国は狂い始めていた。やがて、新政府軍本隊が遂に蝦夷の地に上陸。箱館の街は、未曾有の混乱に巻き込まれていく。最期の戦いを覚悟した土方は、小姓・市村鉄之助に己が写真と勝海舟への親書を託し、明日に生きよと説く。五稜郭では、榎本が赫乃丈を伴い、「覇者の首」の強大な力を発動させる! 耀次郎の眼前で、大地が唸り、五稜郭に異変が起ころうとしていた…!! 「生き残ること…それこそ、お前の任務。頼んだぞ…」
赫乃丈との対決を決意した耀次郎の前に、神無が立ち塞がる。魔城と化した五稜郭を攻め滅ぼさんとする新政府軍と共和国軍の熾烈な戦いの最中、箱館山を舞台に、耀次郎の月涙刀と神無の銃弾が最後の決着を着ようとしていた! そして、今。五百年の歳月より、歴史の表舞台に再び返り咲かんとする一族の悲願が、蒼鉄の野望が遂に完成しようとしていた! 「いざ進まん! 新たなる世界へ!!」 五稜郭より放たれた禍々しい閃光が日本全土を赤く染め、「覇者の首」の哄笑が響き渡った――!
魔城五稜郭内部に突入した耀次郎。だが、そこに待ち受けていたのは守霊鬼と化した旧幕府軍の兵士たちの群れと、今や「覇者の首」の守り刀となった赫乃丈の姿であった。 ふたつの月涙刀が、その雌雄を掛けて、今、三度相見える! 「永遠の刺客」としての宿命(さだめ)をまっとうせんと決意した耀次郎は、赫乃丈との一騎打ちに臨む! 「彼の者再びあいまみえし時あらば、一刀の下に斬り捨てる所存にて候…!!」 ふたりの「永遠の刺客」の戦いを、冷ややかに見据える蒼鉄の視線。 彼の者が望む世界の完成の瞬間(とき)が刻一刻と迫っていた――!