てつこてつ

ウディ・アレン VS ミア・ファローのてつこてつのレビュー・感想・評価

5.0
これもHBO。現段階ではU-NEXTでしか配信されていないようだが、少しも多くの方に見ていただきたい、リサーチを徹底的にし尽くした感がある骨太の社会派ドキュメンタリー。

ウディ・アレン監督と長きにわたりパートナーだった女優ミア・ファロー。実際、ウディ・アレン監督×ミア・ファローがタッグを組んだ「カイロの紫のバラ」「ハンナとその姉妹」等の作品のレベルは高く、個人的にはダイアン・キートン主演の作品群よりも好きかもしれない。

そんなおしどりカップルのイメージが強かった二人だが、日本でも、ウディ・アレンがミア・ファローの養女と結婚したニュースは話題となり、個人的にも「え??」となった記憶がある。

が、しかし、全4話で構成される本ドキュメンタリーで描かれるのは、当時7歳だった別の養女への性的虐待スキャンダル。まさかこんな事件が起こっていたとは全く知らなかった。

ミア・ファロー本人がカメラを回し続けていた家族がコネティカットの別荘で過ごす姿などが、より説得力を生む。被害にあった幼女の性的虐待を受けた後の強ばった表情など見ていて切なくなる。

同時に成人して今は母親にもなった彼女がトラウマに真っ正面から立ち向かう姿に少なからずも救われる。

そう、事件が起こったのが1992年前後で、このドキュメンタリー番組が製作2021年なので、何と、約30年にもわたるミア・ファローとその養女の闘いを追い続けた壮大で濃密な大作。

ウディ・アレン側はHBOからの質問に一切回答をしていないようなので、当然、ミア・ファロー側からの視点に偏ってはいるが、当時の検察官や児童心理の専門家などのインタビュー動画が要所要所で入ることや、ウディ・アレン側が主張する“養女に恋人を奪われたミア・ファローが執拗な嫉妬心で嘘を幼女に吹き込んだ”という主張が、訴訟大国のアメリカのニューヨーク州で裁判長の誠にもって説得力ある判断で棄却され、二審も同判決、最高裁は棄却された事実からも、公正さと信憑性も非常に高い内容だと確信できる。

オスカー受賞の際でも登壇しないほどマスコミ嫌いで有名なウディ・アレンが、一時期、頻繁に映画祭の場に登場した理由もパブリシティの一環だったのだなと納得できる。

莫大な財力を持つウディ・アレン監督が有能な弁護士団を結成し、さらにはニューヨークのイメージアップに多大に貢献してきたからとニューヨーク州の有力者までも買収し、ミア・ファローを徹底的に叩き潰そうとした事実には、正直、これまで監督の作品のファンだっただけにショックを隠しきれない。

また、騒動直後はNEWSWEEK誌やTIME誌といった名だたるメディアがウディ・アレン側を支持した報道をしていたという事実は、アメリカこそ、現代の先進国の中では唯一真のジャーナリズム精神が貫かれていると信じていた自分がいたので、これまたショック。

作品内でも映像が登場する代表作「マンハッタン」・・。確かに美しく映画の出来としても素晴らしい作品ではあるが、実際は、アレン演じる主人公の中年男性と17歳という未成年の少女の恋愛ドラマで、彼が多くの作品で執拗にヒロインの年齢設定をこの年頃にしていた・・という事実を知らされると、確かに小児性愛者の嗜好も否定しがたい。

まさかこの騒動で、ハリウッド映画からは遠ざかってしまっていたとは知らなかったミア・ファローが年齢を重ねても凛とした表情が実に神々しくも美しい。また幼女から強く逞しく生きようと成長する被害者ディランには拍手喝采を送りたくなる。

皮肉な事に、唯一、ウディ・アレンとミア・ファローの間に産まれた実子である弁護士兼名門誌NEW YORKER編集記者の手によって、#MeToo運動の流れと共に社会的制裁を食らうことになったウディ・アレン。彼の監督作に出演した事を後悔していると続々声明を発表するナタリー・ポートマン、ケイト・ウィンスレットら大物スターたちも最終話で登場する。

自分自身、もう二度と彼の作品を見ることはないだろう。
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