シュローダー

17才の帝国のシュローダーのレビュー・感想・評価

17才の帝国(2022年製作のドラマ)
5.0
NHKにて全5話構成で放送されたドラマである。普通の僕だったら日本のテレビドラマはよっぽどの理由がない限りまず観ないのであるが、今作には観る理由が存在した。まず、脚本が「けいおん!」「たまこラブストーリー」「リズと青い鳥」「若おかみは小学生!」「平家物語」などなどでお馴染み天才脚本家吉田玲子が担当しているという事。そして役者陣がとんでもないメンツを揃えているという事。これらの要素から観てみるかと思い立ったが最後、大ハマリしてしまった。NHK製作ドラマの意地を感じる民放ドラマとは格の違う「サイファイ」表現に成功している金のかかった画作りがリッチで素晴らしいのは軽いジャブ。物語はNHK製作とは思えないレベルで切れ味鋭い政治風刺が明け透けに描かれながらも、若者たちと若さを失ってしまった大人たちとの青春劇が同時に進行していく。主人公である17歳の総理大臣を演じる神尾楓珠のイノセントを称えた演技が見事なのは言わずもがな、なんといっても若手女優界の最重要人物、山田杏奈がもう本当に可愛い。存在そのものがアニメ的美少女なのは勿論だが、彼女が輝くのは報われない薄幸な女の子の演技をしている時。悲しみの感情を内に溜め込んでいく演技がとにかく巧い。物語の都合上、彼女が毎週毎週メガネをかけてくれるのであるが、ハッキリ言って犯罪的な可愛さであった。

「メガネとは『もがき』の象徴である。寧ろ視界がぼやけた方がこの世は幸せかもしれないのに、それでもなお世界のありのままを見ようとする努力の具象化がメガネである。」

という事を常日頃から考え、3度の飯よりメガネっ子が大好きな僕にとって、このドラマは毎週観ている間心筋梗塞を起こすんじゃないかと思ってしまった。この2人は恋愛邦画の隠れた傑作「彼女が好きなものは」でも共演済みなので相性の良さは証明されているが、そこにさらに染谷将太、松本まりか、柄本明、田中泯ら名バイプレイヤーが加わる。そして何と言っても星野源が超良い。この物語のもう1人の主役とも言うべき重要な役柄であったが、特に2話以降からは目の演技一発でそれを体現する役者としての力量の高さをひしひしと感じさせてくれた。望月三起也「ジャパッシュ」やミヒャエルハネケ「白いリボン」の様な「若者が大人を滅する恐怖」を描いた本気で怖い話でもあるし、ヨハネの黙示録第"17"章を非常に重要なモチーフとして脚本に織り込んでいる。つまり、ユダになってしまった人と、神に選ばれ、天命と理想を背負いながら苦しみ、それでも人々に否定されたキリスト的存在とのラブストーリーでもある。それらの物語が全て結実する最終回ラストのあの青臭さと品の良さが同居したセンチメンタルな情景の尊さは本当に至福だった。「サイダーの様に言葉が湧き上がる」以来の満点と言わざるを得ない見事な幕切れだった。このドラマのお陰で久々に毎週が本当に楽しかったし、人間という存在の醜さと尊さを噛み締めることが出来た。欠点は短いということだけ。1クールでも全然持つ強度を持った物語だった。