シュローダー

カルテットのシュローダーのレビュー・感想・評価

カルテット(2017年製作のドラマ)
5.0
日本のドラマで1番好きな作品は何だろうと考えた結果、やはりこの作品に行き着いてしまった。坂元裕二脚本作であった「花束みたいな恋をした」を観た後に追っかけで観たのだが、「花束〜」が子供向けに見えるレベルで数段上の大傑作に巡り合ってしまった。全10話で展開される物語は、各話毎に「まさか」と思わず呟いてしまうような、登場人物の印象が回を経る毎に全く変わってしまう超絶アクロバット。サスペンスとして興味をジリジリと引き付けたかと思えば、第6話のわずか45分で「花束〜」の完全上位互換たる恋愛と結婚の破局を残酷に示す。着実にこちらの真綿を締め上げる胃酸が逆流しそうな展開が1時間ずっと続くので観てて体調が悪くなるレベルで超面白い。まるで柔道の組み手をやらされている様なハードコアな展開の連続に、もう毎話泣いていた。しかもそれらの破局を「唐揚げにレモンを勝手にかける」などと言った日常の些細な出来事になぞらえて語るのがまさに坂本裕二脚本の真骨頂。くだらないやり取りの全てが後々になって決定的なカタストロフに繋がっていくサスペンス。多幸感と恐怖の対位法がとにかく巧い。それを支える役者陣も最高。松たか子の「この人何考えてるかわからない」感じや、松田龍平の不器用さ、満島ひかりの憎めない可愛さ、高橋一生の超めんどくさいのに根は真面目なギャップ萌えぶり。全員「目」の表情が豊かな役者たちが繰り広げる他愛のないやり取りの全てが愛おしい。劇中で彼らは自分たちをドーナツに例える。ドーナツは穴が空いてるからドーナツ。穴の空いてないドーナツはただの揚げパンである、と。欠点も秘密も大いにある生きるのが不器用な穴あき人間たち。だが彼らは、人生やり直しボタンが目の前にあったときに「押さない」という選択をする人間なのだ。最初に提示されるキャラ設定を何度も何度もひっくり返す行間を読ませまくる脚本のお陰で、一瞬たりとも気が抜けないサスペンスと、片想いが交錯するズブズブの人間関係が同時に襲いかかってみぞみぞする。だからこそあのラストには号泣必至。最終回の美しさは言葉に尽くしがたい。恋愛ドラマならぬ「恋愛についてのドラマ」として、人生の有限性を高らかに謳い上げる人間讃歌の物語。文句無しのオールタイムベストドラマ。