こうん

ターミナル・リストのこうんのレビュー・感想・評価

ターミナル・リスト(2022年製作のドラマ)
4.1
たった1日のお盆休み!それを深く考えると「きえー!」となるので、妻もいない自由な1日、なんでもないやつ観ようやと思い、このアマプラ配信ドラマシリーズ全8話をクーラーの効いた部屋でプリングルス(もちろん緑のやつ)喰いながら一気見。

身もふたもないこと書きますけど、不人情な殺し方がいっぱい観られて満足でした!

特にメキシコ在住の殺し屋相手にタクティカルアックス使用の「ひえー」な屠り方。しかもシビアな状態にしておいて「歩け」だってさ。
このドラマのクリプラかべニチオ・デル・トロにしか許されない、非情です。

そのべニチロ・デル・トロというのは「ボーダーライン」2作のアレハンドロのことで、麻薬カルテルに妻子を惨殺された復讐マシーンなわけですが、本作のクリプラも同じく妻子を無残に殺されて復讐を誓う最強のネイビーシールズ隊長であり、その復讐心の深さ重さがそのまま殺人シーンに直結して表現されている、という意味で、殺し方がいっぱいで楽しかったです。

と同時に復讐モノとして話が進めば進むほど、主人公クリプラの後戻り不可能具合が深まり、どんどん冥府魔道と化していくので、そういう意味では辛かったですね。
楽しい!でも辛い…いや楽し、辛いけどやっぱり楽しい…というアンビバレントな気持ちで、結果的に大満足でした。

その冥府魔道のクリプラが、今までにないネガティブなキャラクターに扮しており、そこも新鮮でしたかね。
また製作総指揮も担っているので、キャラクター造詣やシナリオ展開にも彼の意思が結構反映されていると思いますが、わりかし近年に新しい家族を得た(そしてシュワルツェネッガーの娘婿になった)クリプラの家族愛が反転して描かれているようにも思えて微笑ましいと言えば微笑ましいんだけど、「この家族を喪ったらおれはこうなるぜ」という凄味もありました。ほぼ本人、と言っても差し支えないかも、というくらいの役柄とのシンクロぶりがみえた気がします。

あとあの肉体ね。筋肉と脂肪を適度に蓄えた実践型マッチョ。その説得力がすごかったですね。
体もマッチョなら脳味噌もかなりマッチョで、その体つきと愛国者ぶりと銃信奉が観ていて、なんか「アメリカン・スナイパー」のブラッドリー・クーパーを想起させますが、その「アメリカン・スナイパー」と同根のアメリカの暗部でもある兵士のPTSDに関わるペンタゴンの思惑があり、そこに軍需産業や製薬会社なんかが絡みつつ、水面下の計画の破綻と謀略が、主人公クリプラをジェイソン・ボーン化させていく、という物語とサスペンスの構造が、よくあるやつといえばそうなんだけど、やっぱしエンターテインメントとして面白いんで、ま、8話ダレることなくひっきりなしに楽しかったです。

タイトルの「ターミナルリスト」とは多分“死ぬ前に殺すやつリスト”ってことなんですけど、主人公クリプラが許諾なしにPTSDにならない未認可新薬の実験台にされ、副作用の脳腫瘍が出来なんにもしないと余命数ヶ月、という設定がより悲劇性と焦燥を掻き立て復讐劇を苛烈にしているし、その腫瘍が海馬だかを刺激し記憶が混濁するというか妻や子を時々で幻視することになり、より心身の苦しみに苛まれるというのが復讐モノとしての深度を増していくことになっていて新味だったですかね。

誰が悪いやつでラスボスは誰なのか、というのもキャスティングの時点でわかっちゃいそうなもんで、徐々に目がヤバくなっていくクリプラの復讐殺人行脚を楽しむ、という一点突破型で楽しむのがよいと思います。

あとコンスタンス・ウーさんがますます池上季実子さんにしか見えないのと、久しぶりに観た客演のジェイ・コートニーがかなり悪辣なイヤな感じで「ざまぁ」感マシマシのキャラクターだったのがよかったっすね。

よくあるやつといえばよくあるやつなんですけど、クリプラの充実度がこのジャンル映画の形にハマっていて、なかなか面白いと思いますし、殺しのバリエーション映画としても最高でした!
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