いけ

silentのいけのレビュー・感想・評価

silent(2022年製作のドラマ)
3.8
感情描写が巧みなドラマだった。
特に奈々さんのハンドバックのエピソードが秀逸だった。
お店の外からのハンドバックを欲しそうに眺める奈々さんのシーンは最初意味が分からなかったけど、見進めていくと、
架空の世界観で奈々さんと想が付き合っているシーンが流れて、
奈々さんの手にはハンドバックを持っていて、想と手を繋いで楽しそうに歩いていく。
でも、それは奈々さんの妄想で、バンドバックが奈々さんの叶わぬ恋を象徴しているということが伝わり、素晴らしい描写だったと思う。
そして、最終回に春尾先生にハンドバックをおねだりするという。
つまり、それって聾者と聴者の壁に苦しんでいた奈々さんが、その壁を乗り越える象徴とも解釈できて、こういう感情描写が本当に巧みだった。

そして、湊斗。
紬が想に取られるんじゃないかとイライラしている方が、親友の病気を受け入れるより楽だったという言葉に湊斗の全てが詰め込まれていた気がする。
高校時代、後ろから呼びかける湊斗を想が無視して戯れ合うシーンの対比で、聾者になった想に後ろから呼びかけても振り向かず絶望する湊斗のシーンも素晴らしかった。
そして、ドラマの後半では、声を介さずにLINEで後ろから呼びかけて、想が振り向き、互いに笑顔交わすシーンに変わり、この一連の対比が素晴らしかった。

忘れてはならないのが、想の妹の萌。
この話は萌が想の秘密をバラしてしまうというヘマから展開していく訳だけど、実は萌こそが聾者と聴者の分かり合えなさに一番寄り添おうとしていた人物だと思った。
だからこそ、最終回で萌が想よりも先に手話を覚えたという小さなエピソードがグッときた。
そして、萌の演技が良かった。

一方で、最後の最後まで想と紬の恋愛には興味が湧かなかった。
奈々さんや湊斗、想の母親、春尾先生それぞれにグッとくるエピソードや人物描写があったのに対し、想と紬のエピソードが弱いというか、同じようなシーンがずっと続くような印象だった。

また、最終回が名言やエモシーンの連続すぎて、若干胃もたれだった。
みんないいこと言い過ぎだし、教室の黒板のシーンは臭すぎて笑ってしまった。

でも、他人との分かり合えなさはどうしたって埋められないけど、その人と一緒にいるために言葉はあるという最終的なテーマはやはり素晴らしかったし、ヒゲダンの主題歌は天下一品だった。
そして、ドラマの描き方自体が、セリフや登場人物の感情をすごく繊細に扱ってきたからこそ、最後のテーマの響き方が増したなという印象。

正直後半失速した感はあったけど、人の気持ちを丁寧に描いているという点で、いいドラマであることは変わりないし、この数ヶ月間に潤いをもたらしてくれた。ありがとう。
いけ

いけ