HAL

三体のHALのレビュー・感想・評価

三体(2023年製作のドラマ)
4.6
Netflix版『三体』、アダプテーションの妙技に翻弄されるいいドラマだった。原作読んでしばらく経つけど多様なジャンルのごった煮というか異様なスケール感と疾走感が素晴らしい。やっぱり一番美味しいところを掻っ攫って行ったのはウェイド役のリアム・カニンガムかな……原作より少しマイルドな大史刑事役のベネディクト・ウォンを完全に喰っていた。本来最終章の人気キャラだしこんなに最初から出してるのは色々ズルい。

そして映像と演出についてはなんといっても第一巻のクライマックスにあるタンカー輪切り作戦。人間関係があそこで一旦ピークを迎え、それがあたかもナノワイヤーでズタズタに切り裂かれるように(もちろん一人の人物については精神もまた切り裂かれている)、そこで一旦ドラマの核が解体されるというのは上手い構成だなと思った。そして映像!原作もそうだけどどこか淡々と、白昼に凄惨な行為が行われる……というおぞましさが印象的だったので、それを引いた視点で見せず、あの内部の光景をあそこまで劇的に演出してくれたところがまるでホラー映画を楽しむ視聴者の視線を逆転させるような構図になっていて、とても良かった。宇宙がウインクするシーンとかもいいなと思ったけどこの場面をこの密度と映像的快楽をもって作り上げたことがシーズン1の一番の勝利だと思う。まぁ原作ファンからすると、この時点はまだ「勝利」とか言っていられるんだな……という切なさもある。若い軍人の視点を入れたことで、作戦自体よりもその後の回収作業の現場にこそ漂う圧倒的な暴力を権力が行使することへの悲しみと怒りが滲んでいた。はたしてここまで進歩した文明が、文化大革命から何が変わったというのだろうか。
HAL

HAL