サトタカ

FARGO/ファーゴ 始まりの殺人のサトタカのネタバレレビュー・内容・結末

FARGO/ファーゴ 始まりの殺人(2016年製作のドラマ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

キルスティン・ダンストのイメージは「スパイダーマン」のメリー・ジェーン。メリー・ジェーンっていうのは名前からして白人女性の最上位というかクラスの一番のきれいどころってこと。それが彼女で個人的に「う〜ん」って(正直なところ)思っちゃっていたんだけど、もうこのドラマのペギー役は最高でした。私が見た中の史上最高のキルスティン。夫のトッドを演じたジェシー・プレモンスは、文句なしにいい役者で、「ブレイキング・バッド」でも素晴らしかった。この二人がリアルで結婚してるっていうのも趣がある。キルスティン、見る目あるなぁ。

ところで、私は英語学習のためにAmazonプライムビデオをPCで鑑賞するときに「Subtitles for LL」を活用している。日本語字幕に加えて英語字幕も出せるのだ。これを使っていて、特にお気に入りのエピソード8の名シーンで気になった箇所があるので書いておきたい。いわゆる「ロスト・イン・トランスレーション」、翻訳で落ちる意味が気になるのよ。あえて落としてるのかもしれないが。

そもそもファーゴという地名をタイトルにしているあたりから、その土地、地域性に由来するストーリー、もっと言えばその土地と住民を何らかのかたちで支配している者のストーリーがテーマなのではないだろうか。

アメリカの土地を元々支配していたのは先住民族のいわゆるネイティブ・アメリカンたち。10世紀、古代スカンジナビア人がグリーンランドへ。15世紀にイタリア人のコロンブスがカリブ海の島に上陸。その後、ベネチア人、ポルトガル人、スペイン人ら探検家たちが続々とアメリカに渡る。16世紀にフランス人ジャック・カルティエが北米におけるフランスの請求権を築く。そして17世紀の初頭には英国植民地ジェームズタウン(ヴァージニア州)ができ、その後、欧州から移民の群れが押し寄せるように。
先住民とヨーロッパからの移民は協調することもあったが移民達の旺盛な土地所有欲から対立するようになり、事が起きるたびに先住民は領土を減らしていった。
ファーゴの舞台となるミネソタ州南部では1862年にダコタ戦争と呼ばれるインディアンに対する合衆国のジェノサイド(民族浄化)が起きている。インディアン戦争は1917年まで続いた。

地下室でペギーに返り討ちにされて縛られたトッドが、エドを見て言うセリフ。
日本語訳「うるせえ、クソみたいな面しやがって」
これはこれでシンプルでおもしろいが、やはり原文の方が描写が細かい分鋭さがある。
原文「And you’re shit on my shoe. Why don’t you come here and let me wipe you off?」
↓直訳
「お前は俺の靴に付いたクソだ。ここに来いよ、拭き取ってやるから」
ニュアンスが違う。顔の良し悪しを言ってるわけじゃない。ここまで挑発的なセリフを愛する妻の前で言われたから(比較的)温厚なエドでも殴ったのだ。
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口ごたえしたことでペギーに包丁で胸を2箇所刺されたトッドが、エドに涙目で訴えるときのセリフ。
日本語訳:「あの女 異常だ」
原文:「She’s crazy. Keep her away from me.」
↓直訳
「あの女 正気じゃない。俺から遠ざけてくれ。」
遠ざけてくれって懇願するほど恐怖を感じてる。あの有害な男らしさのかたまりのマフィアがただの主婦(サイコパスだけど)に縮み上がるさまには大笑いさせてもらった。
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さらに瀕死のトッドの元にハンジーが救出に来たシーンでトッドのセリフ。
日本語訳:「早く撃ち殺せ クズ 大ケガをしてるんだ」
原文:「Just shoot ‘em, you half breed. I’m hurt real bad here.」
↓直訳
「早く撃ち殺せ この混血児が(特にインディアンと白人のミックスに対する差別語) 俺は大ケガをしてるんだ」
ハンジーはどういうわけかペギーに髪を切ってくれないかとのんびりと相談し始め、たまりかねたトッドが
日本語訳:「早くしろ 出来損ない」
原文:「Jesus Christ, you mongrel...」
↓直訳
「くっそ…、混血野郎(またしても差別語)」
そしてトッドはハンジーに頭を撃ち抜かれ即死する。

こうなる前に伏線はあった。

ハンジーが聞き込みのために立ち寄ったバーの壁に貼られていた銘板に「ここは1882年に22人のスー族インディアンを絞殺した場所」と書かれており、さらにその下には吐瀉物。
ハンジーはバーの主人に水を頼むと唾入りのものを出され、その上1890年の「ウンデット・ニーの虐殺(インディアン虐殺)」の話まで持ち出され、自分の土地に帰れやらアメリカ人らしくしろと侮辱的な説教をされる。ハンジーはテキーラを一杯飲んで金を払って店を出るが、店内にいた3人の客に絡まれる。「ジェロニモ、どこへ行くんだ?弓矢はどうした?」ハンジーは「水を頼んだだけだ」と答え、2人の足を拳銃で撃つ。店内に戻り、「警察を呼んだゾ」と言う店主の心臓を撃ち抜く。迅速に駆けつけたパトロールカーの警察官が「動くな、酋長」と声かけると、ハンジーは2人ともM16で射殺する。この一連の流れでキレたのかなぁ、ハンジー。
それで、トッドに侮辱的な言葉遣いされてダメ押しされて、ゲアハルト家への忠誠心が完全になくなってしまったのか?

日本語の字幕だけ見ているとすこし唐突に思えたハンジーの裏切り。オリジナルのセリフをチェックした方が伝わるかと思い調べていたら長文になってしまった。白人のネイティブ・アメリカンに対する歴史的な差別の積み重ね。モニターで見てるアジア人までイヤになってくる。

虐げられた弱者の逆転、悪あがきは「ファーゴ」の基本。グッとくる。
サトタカ

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