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東京裁判のKUBOのレビュー・感想・評価

東京裁判(2016年製作のドラマ)
4.5
おもしろい、おもしろい!

2016年制作のドラマで何度か再放送もあったのだが、その都度見逃していたので、今回の再放送でやっと見られた。NHK、ありがとう。

映画『東京裁判』は記録フィルムの上にナレーションを被せる形のドキュメンタリーだが、このドラマ版は、裁判官たちの判決までの裏側を描いていて大変興味深い。

裁判部分で使っている映像は、映画『東京裁判』で使われた記録映像と同じなのだが、リマスター化された映像は、東條英機の映像がクリア過ぎて怖い。カラーライズもされて、最近撮った映像かと思うほど鮮明だ。逆にキャストが撮った部分の映像の粗さをそのレベルに合わせて、どこからドラマでどこから記録映像かわからないほど。

日本人としては、登場してきただけで手を叩きたくなるインドのパル判事。唯一「被告全員を無罪にすべき」という意見書を出した判事として有名だが、彼の主張の根幹は、

【事後法で裁いてはならない】

平和に対する罪(侵略の罪)を規定した東京裁判憲章は、開戦当時には存在していない法律。その法で法律制定前の犯罪を裁いてはならない、という考え方だ。この「事後法」という考え方は、そのまま今の香港の周庭さん逮捕にも当てはまる。香港でデモがあったのは、国家安全維持法制定前なのだから。

パルにはもう一つ、インド人としてこだわったところがある。それが「植民地」に関する考え方だ。

インドはこの当時(1946)まだイギリス領。母国が長年イギリスによって支配されているパルはこう言っている。

「まだアジアの大部分は西洋諸国の植民地のままだ。それらの地域は暴力で征服され、現地の人々は搾取されてきた。では何故オランダやイギリス、フランスには、アジアを解放したかったと主張する日本を裁く権利があるのですか?」

主流派はこのパルの意見を疎ましく思うが、その根底にある考え方は、「東京裁判で事後法であっても侵略の罪を裁かなければ、ニュールンベルク裁判でドイツを裁いたことの妥当性が失われてしまう」ということ。

またパルの意見に影響を受けたオランダ人判事のレーリングもこの裁判の進め方に疑念を持つ。

「戦争は政策であり、主権国家によって行使されるものです。それならば、どうしてその国の個々の人間に対して、我々が罪や罰の程度を法的に決められるのですか?」と。

戦勝国が敗戦国を裁く東京裁判は、戦勝国側の都合でサクサク進められるのかと思っていたが、思わぬシーンが出てきて驚いた。アメリカ人のブレイクニー弁護人が、

「アメリカの高官が真珠湾攻撃以前に日本の攻撃を予見していた」と切り出したからだ。

以下、アメリカの通信兵の証言だが、「日本政府からワシントンの日本大使館に送られた電信の暗号解読をしていた。電信はアメリカへの最後通告だった。暗号は解読されルーズベルト大統領に送られた」と裁判で述べたのだ!

【真珠湾攻撃は奇襲ではなかった。】

→だから真珠湾に空母が一隻もいなかった(『永遠の0』で岡田准一が叫んでいる)
→このことが後の『ミッドウェイ』での大敗につながる。

要するに、第二次世界大戦に参戦する機会を伺っていたルーズベルトが、知っていて日本に先に攻撃させ国民感情を参戦に向けたのだ、とする説だ。(同様に9.11も同じ目的の自作自演だ、とする説もある)

この説は別のドキュメンタリー番組で知ってはいたが、東京裁判で、アメリカの通信兵が証言していたのは知らなかったからびっくりした。

また、日本人に人道の罪を問うのであれば、広島、長崎に原爆を落としたアメリカの責任者も裁かれなければならない、という反論もたいへん興味深かった。

【人は戦争を裁くことができるのか?】

東京裁判というと、戦勝国が敗戦国を裁くなんて認められん!とずっと思って関心を持っていたが、私は「戦争を裁く」のであれば、戦勝国も敗戦国も平等に裁かれるべきと思う。

非戦闘員の殺害が罪になるのならば、対馬丸を沈めた米潜水艦は? 東京大空襲は? 広島・長崎への原爆投下は? これらが平等に裁かれるのでなければ、戦争裁判など茶番だ。

計4時間のミニシリーズではあるが、つまらない映画よりずっと見応えがある。今回見られて本当によかった。
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