このレビューはネタバレを含みます
「板垣李光人って美しすぎるな」と前から思っていましたが、今作ではその顔や佇まい、言動の美しさをより強く感じました。これからも、板垣李光人にしか演じられないキャラクターがたくさん生まれるだろうなと、つい想像してしまいます。
第2話。「殺人はいけない」「殺人者になってはいけない」___このことだけは明白です。けれども、コンビニ店員だった彼(被害者)の視点で考えたとき、私たちは“どう在るべきか”を問われると、答えるのが難しくなります。
彼はいつも優しく、正しい人でした。彼の行動は決して悪いことではなかった。けれども、妄想と虚構の中で生きていた彼女(加害者)にとっては、それが“互いの死に値すること”だったのです。自分の行動が100%善意で、100%正しかったとしても、それが必ずしも相手のためになるとは限らない。ときに、相手は絶望してしまうかもしれない___そんな現実を、知りました。
私たちは、行動を起こす前に一度立ち止まり、考えるべきなのでしょう。けれども、コンビニ店員の彼も、薬を渡す前に何度も悩んだのだと思います。その結果が、あの結末だったとするならば___彼は、どうすればよかったのでしょうか。私たちは、どうすればいいのでしょうか。
第3話。明かされた鈴木(中島裕翔)の行動の真意。思い詰めがちな薪(板垣李光人)にとって、もし貝沼(國村隼)が28人を殺した動機が「自分へのプレゼント」だったと知ってしまったら、きっと耐えられない___そう思って、鈴木はあの行動を選んだのだとわかりました。それは、ただの友達想いでは片づけられないほどの、深くて切実な愛情でした。そして同時に描かれた、貝沼の薪に向けた異常ともいえる愛情。そのコントラストに、同じ“愛”でありながら、ここまで違うものかと鳥肌が立つような感覚を覚えました。
第6話。私は幸いなことに、暴力とは無縁の家庭に生まれ、幸せに育ててもらいました。だからこそ、「いかなる理由があっても虐待相手を殺してはいけない」なんて、簡単には言えません。もちろん、それはいけないことだとわかっています。でも、言えないのです。
ただ、殺人や暴力というものは、一度経験してしまうと、その人の中で“選択肢の一つ”になってしまうことがあるように感じます。だからこそ、それは決して“踏み入れてはいけない領域”なのだと思っています。視聴しながら、ずっと胸が苦しくて、自分がいかに恵まれた環境にいるのかを痛感しました。
第7話。「閉じ込められているのはどこかの誰かじゃない。誰かの雪子さんで、誰かの薪さんなんです。」___とても温かくて、真剣で、心に深く残る台詞でした。そこに込められた思いや祈りのような感情に触れて、「この作品を観てよかった」と、心から思える瞬間でした。
第8話。暗くて狭いコンテナの中、途方もないほどの時間をひとりで耐え抜いた女性。その救出のために国が動き出す。そのシーンはとても爽快で、彼女が無事に助かったことも含めて、観ていて本当に胸がすく思いがしました。
そして、淡路の死。まったく予想外でした。外務大臣が彼を殺そうとする場面では、誰かが止めに入るものだと、どこかで信じていたのに、そうはならなかった。娘の命に比べれば、他のことなどどうでもいい___あの行為は、まるでそう語っているかのようでした。もしかしたら、多くの誘拐被害者の家族も、同じような思いを抱え、同じような行動をとりたいと願っているのかもしれません。ただ、その「機会」がないだけなのかもしれない。
そして、さらなる衝撃。外務大臣と娘が生物学上の親子ではなかったという事実。この物語に、なぜその設定が必要だったのか、最初はまったく理解できませんでした。けれど、真実が明らかになったとき、ただ唖然とするしかありませんでした。
「親子3人で幸せな時間を過ごしているはず」____テレビから流れるその音声が、事実を知った私たち視聴者、そして何より大臣にとって、あまりにも残酷な演出でした。「鬼になる」と宣言した淡路は、もはや言葉通り“鬼そのもの”でした。
第9話。青木(中島裕翔)の姉が殺害される展開には、驚きとともに、こみ上げてくる悲しさが止まりませんでした。青木を包み込むような優しさを持った姉夫婦。そんなふたりが、こんな結末を迎えるなんて、想像もしていませんでした。
第10話・第11話。姉夫婦の死があまりにもショックだったために、結末を知っても、どこか納得しきれない気持ちが残りました。それでも、物語全体を通して、強烈な存在感を放った貝沼という狂気と知性をあわせ持つ凶悪犯、そして人の痛みに敏感で、外見も内面も魅力的な薪というキャラクターに出会えたこと。それはこの作品を観た大きな価値のひとつでした。
また、被害者の脳から事件の“記憶”を読み取るという「MRI捜査」という設定も非常に面白く、緊張感と感情の揺れが交錯する中で、最後まで観る価値のある、見応えある作品でした。