夏藤涼太

Nのためにの夏藤涼太のレビュー・感想・評価

Nのために(2014年製作のドラマ)
4.6
『mother』5話再放送を見た翌日に『Nのために』最終話の再配信を見てしまい、連日の涙で脱水症状になりかけました。

原作の膨らませ方、脚本と構造の緻密さ、映像と音楽で物語る演出の巧さ、キャスト、主題歌、ロケーション、すべてが文句なし。原作を超えたTVドラマの数少ない一例である。

瀬戸内海(特に島)の恋愛(特に悲恋)ものオタクになってしまったのは、おそらくこのドラマが元凶。

「誰かを守るために無心に嘘をつく人間もいる」というセリフが象徴するように、「誰か(n)のために嘘をつく(罪を犯す)」ことをドラマチックに、またロマンチックに描いており、美しすぎる映像と純愛っぷりから、表面的にドラマをなぞった際には、人の想いの切なさに感動することができる。

だが、そのセリフを吐いた高野は事件の真相を何も知らないわけで。真相を知っている視聴者なら皆わかっているはずだ。
奈緒子は野口とずっと一緒にいたかったし、安藤は皆に関わりたかったしきっと癌も知りたかっただろうし、成瀬は無実だ。あの毒親の母親だって、ずっと「希美のため」と言っていた。
「誰かのために」といっても所詮は自己満足であり、たいていの場合は、相手もそんなことを望んでいないということを。
利他の心の美しさをこれでもかと描いておいて、最後にそのちゃぶ台を皮肉たっぷりにひっくり返す。それも極めて巧妙なかたちで。このちゃぶ台返しをもっとわかりやすく描いていたら、素直に楽しみたい多くの視聴者から批判が殺到したはず。このエンタメ性(ポップ性)と文学性のバランスが見事だった。

メロドラマ的な切なさに浸るエンターテイメント連ドラとして見ることもできれば、アイロニカルな文学作品として読み解くこともできる傑作ドラマ。
大人の事情で再放送不可能な中、再配信してくれたTverに感謝多謝。

しかし、助けたいと思う安藤と、助けを求めることができる成瀬、本当に愛しているのはどちらなのかという視聴者に投げかけられた謎は…なかなか深い問いである…
夏藤涼太

夏藤涼太