真一

ウォーキング・デッド2の真一のレビュー・感想・評価

ウォーキング・デッド2(2011年製作のドラマ)
4.0
 ウォーキング・デッドは「誰かを助けるために他人を犠牲にしていいかどうか」という究極の問いを、観る人に対し、これでもかとばかりに突き付けてくる連続ドラマだ。特に、このシーズン2は強烈だった…

 「足の遅い相棒と一緒に逃げれば、自分も相棒もゾンビに食われてしまい、帰りを待つ重傷少年に医療品を届けられなくなる」。こうした過酷な状況下で、シェーンは相棒を銃撃してゾンビの餌食にする。ゾンビ集団を足止めし、逃げるためだ。

 この結果、必要だった酸素吸入器を少年に届けることに成功。この冷酷な行動は、決断したシェーン自身の人生観に深刻な影響をもたらす。シェーンは「極限状態の下では、目的達成へ手段を選んではならない。良心や倫理観も、必要に応じて捨て去るべきだ」と悟ったのだった。

 これに対し、決断の際に人間としての良心にとらわれがちな主人公リックは、ひたすら失敗を繰り返す。幼い娘が行方不明になると、何日もかけて捜索を続け、その結果、自分の息子カールが重傷を負う「二次災害」を招いた。「母親のキャロルが娘の生存に望みをつないでいるのに、捜索を打ち切るわけにはいかない」という思いやりの心が、新たな災難を生み出したわけだ。

 より多くの人命を救助してグループを守るという観点に照らせば、冷酷な判断を下すシェーンの方が、温情と良識に左右されるリックより「有能」かもしれない。だが、シェーンのような行動を繰り返せば、もはや人間ではなくなる。地獄のような終末世界で取るべき道は、どちらか。シェーンか。リックか。

 この結論を出しようもない難題は、倫理学では「トロッコ問題」と呼ぶようだ。

 猛スピードで迫り来るトロッコ。線路には5人が横たわっており、このままだと引かれて全員死ぬ。5人を助けるなら、線路を切り替え、トロッコを支線へと導かないといけない。そのための切り替えスイッチが、あなたの目の前にある。ただし、支線の線路にも1人縛り付けられている。スイッチを押せば、あなたは自身の意思で1人を殺すことになる。さて、あなたはスイッチを押すか。押さないか。これがトロッコ問題です。

 こんなの、答えられるわけがない。つらすぎます。それを「このシチュエーションならどうするか。あなたに聞いているのだよ」とささやくのが、本作品。見ていると、心が病みそう。傑作ですが、メンタルに自信がない方には、お勧めできません。
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