真一

ウォーキング・デッド5の真一のレビュー・感想・評価

ウォーキング・デッド5(2014年製作のドラマ)
4.0
 ゾンビの大群や冷酷な人間集団に何度も殺されそうになりながらも、あなたは相手を返り討ちにしながら生きながらえたとします。そんなあなたがたどり着いたのは、外敵に襲われたことがほとんどない、平和な村でした。アレキサンドリアと呼ばれるこの村の住民たちは、あなたと違い、生き地獄を経験していません。このため、まともな兵力も、強力な武器も持っていません。外部の人間に対する警戒心が薄く、フレンドリーに接しようとするアレキサンドリアの「常識」を、あなたは受け入れますか?それとも…。

 全世界で大ヒットした米国のドラマ「ウォーキングデッド」のシーズン5は、自分はリベラルで護憲派だと思っている人の価値観を激しく揺さぶる内容だ。「どんなに対立しようとも、しっかり話し合えば、平和共存の道は必ず見つかる。私たちは互いに人間だからだ」というリベラル思想の核心を、本作品は、鋭いメスでグサグサに切り刻んでくる。「脳内がお花畑になっているぞ」と。

 ※ ここからネタバレ含みます。

 象徴的なのは、アレキサンドリアからの使者を名乗る友好的な若者を、主人公のリックが極度に警戒し、殺そうとするシーンだ。リックはこの時、人肉を当たり前のように食べる集団に監禁され、加工処理されそうになったばかりだった。その食人集団も、同じように友好的に接近してきた経緯があった。これに騙されたリックは「2度と同じ轍は踏まない」と誓っていたはずだ。良ければ村に来てほしいと呼びかける使者に、鉄拳で応じるリック。リックの行動は間違っていたのか、否か。
 
 私自身も、どちらかと言えばリベラル系だと思っているが、リックたちが得体の知れない相手を生かすべきか殺すべきか迷う場面で、心の中で「殺すしかない。やっちまえ」と思わず叫んだこともある。まんまと作り手のペースに乗せられている感じだ。

 ところが本作品は、見る人から「死んでよし」と思われている敵キャラが、思いがけず延命し、最終的に主人公たちの仲間に入って命を救う活躍を繰り広げる場面もふんだんに盛り込んでいる。ストーリーを追ううちにタカ派に転向したあなたは、再び「やはり人命は大切にしないといけないのかなあ」という思いを抱くようになるのだ。こんな感じで、見る人一人一人の価値観を何度も何度も揺さぶるのが、本作品の狙いであり、醍醐味であり、面白さだと思います。
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