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ブラック・ミラー シーズン6の傘籤のレビュー・感想・評価

ブラック・ミラー シーズン6(2023年製作のドラマ)
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さて、最新シーズンまで追いつきました。一話完結の短編シリーズのため、話によっては好みが分かれますし、ジャンルや方向性もそれぞれ違うことから、作品の出来にも良い悪いはあります。しかし総じてレベルが高く、SFや風刺の持つ力、面白さをたっぷり味わえるドラマでした。好きな作品ベスト5を考え中ですが、「国家」「殺意の追跡」「サン・ジュニペロ」あたりはたぶん入ります。どれもすばらしく出来がいい。こういうブラックな短編SFは人気が出ないとすぐ打ち切られますし、作る面でも大変でしょうから、これからも応援していきたいと思います。全体のテーマとしては「人の欲望」や「現実の虚ろさ」、「テクノロジーと社会」あたりにあるのでしょう。いやー、面白かったなあ。大好きなドラマがひとつ増えてしまった。
では以下で一話ごとの感想を。

1話 ジョーンはひどい人
なんじゃこりゃあ。戦慄が走るほどメッタメタな展開で笑いと恐怖が同時にきました。いやー、こりゃひどい。
若くして成功を収めた女性ジョーンは人気配信プラットフォーム(どう見てもNetflixです)で自身の生活を元としたドラマが作られていることを知る。サルマ・ハエックが演じるそのドラマはジョーンの身に起こったあらゆることを逐一配信していくというとんでもない内容だ。しかしそれらは配信サービスの利用規約で許可した内容のため法的にはまったく問題なし。混乱の度合いは話が進むほど増していき、それに伴って実生活はどんどん悲惨なことになっていく。やがてジョーンとサルマ・ハエックが邂逅し、筒井康隆ばりのメタ的でドタバタな展開を見せてきます。観ていて「自分も生活やちょっとした言動をすべて見られ、しかもドラマとして脚色され、世界に配信されたとしたら」なんて想像してしまい、悪寒を覚えました。コメディテイストですが怖いったらないね。しかもさらにこの作品自体が仮想の作品であり、一部の人たちはそのことをちゃあんと認識しているという……まあとにかくむちゃくちゃです。アルゴリズムによって規定されたあなたの生活、代用がいくらでもいる自分という存在、利用規約をまったく読まない私たち(笑)、そこら辺のことに思いを馳せました。そしてこんなにぶっ壊れた設定なのに何故か最後はあたたかい気分にさせられます。すごいや。ちなみにさらにもう一階層中にいるジョーン役がケイト・ブランシェットなのに笑いました。

2話 ヘンリー湖
うおぉ……なんつう嫌~な気分になるホラーを作るんだ。
導入は結構ありがちなもので、ドキュメンタリー映画を撮るために田舎町を訪れた若いカップルが、かつてその地で起きた恐ろしい事件の話を聞き、徐々に狂気的な事件に巻き込まれていく……という、まああらすじだけ聞くとありきたりなB級ホラー。ですが、俳優たちの演技力が高く、演出も引き締まっているので見ていられます。何よりラストのどんでん返しというか風刺みたいな展開が実に「ブラック・ミラー」らしい。つまりは「実際起きた殺人事件でさえ私たちはコンテンツとして消費している」ということを描いた作品で、これを観ている私もまた、やっぱりその醜悪さからは逃れられていないというわけだ。SFとしてみるとどうなんだろう、という感じだが、奇妙で後味の悪い話を求めてる人には満足度高そう。

3話 ビヨンド・ザ・シー
宇宙で活動するふたりの男デイヴィッドとクリフ、そして地上にいる同様の姿をしたふたりのレプリカ。彼らは交代制の任務において、片方が眠っている間は意識をレプリカに飛ばし地上にいる家族と生活を共にすることが出来る。しかしある日、「レプリカ」という存在そのものを禁忌とみなす集団がデイヴィッドの家に押し入ってきて……。
宇宙における船外活動と、地球での日常風景。このふたつを交互に描きがら持つ者と持たざる者の意識が”どう乖離していくか”を見せてゆく。哀しみや陰鬱さが強く、人間の「業」や「エゴ」を伝えようとする見せ方は、まさしく「ブラック・ミラー」らしいなと感じます。SF的なシチュエーションの面白さもあって、状況を理解してからは、「どうオチを付けるのか」という部分が気になり、引き込まれました。
そして何よりアーロン・ポール!ドラマ『ブレイキング・バッド』以降ほとんど姿を見せなかった彼ですが、久々の登場にアガりました。内容に若干触れることとなりますが、このドラマでアーロン・ポールは一人二役を演じており、それぞれの人物像があまりにも「憑依しすぎ」な状態になっていて、まあすごいなと。作品自体も良かったけど、彼の迫真の演技を見れただけで気分はほっくほくです。

4話 メイジー・デイ
40分くらいの作品なので、このシリーズにしては短い方。終盤になるまで話の全体像、というかこのドラマのキモとなる設定がよくわからなかったのだけど、最後まで見てがらりと印象が変わりました。なるほどこりゃ確かに「ブラック・ミラー」だわ。テーマとしては金を稼ぐためには倫理や恐怖もすぐ忘れちゃう、人の心が移り変わる早さや軽さを描いてるんでしょうか。こういうミステリーっちっくなホラーもいいですね。

5話 デーモン79
一応時代は1979年ということになっているらしい。『ブラックミラー』は時代を過去に移すことで、より分かりやすく風刺を描くことがあり、これも歴史改変ものの一種かなーと思って見始めたのだけど、思ってたのと違った。
話はこうだ。靴売り場で働く内気な少女ニーダ。ある日彼女のもとに陽気な悪魔が現れ、「世界を救うため3人の罪人を殺さなくてはならない」と警告される。正直結構初めのうちから、悪魔はニーダだけに見えてる妄想なんだろうなーと思ってた。実際悪魔であるガープのことが見えているのはニーダだけだし、都合よくルールは書きかえられていくし、そして最後は殺人容疑で逮捕されるって寸法だ。ありがち~。いやでもね、これブラック・ミラーですから。仮に最後に映された世界滅亡の場面がニーダの妄想ではなく、現実なのだとしたら、一気に作品のファンタジー度は上がるだよな。たぶん製作者的には、「どちらでもいい」ように作っているのだろう。「どちらとも取れる」ではなく。そうすることで、この短編はファンタジーにもミステリーにもブラックジョークにも姿を変える、まさにガープのような「見る側」の観たい現実を映し出す鏡〈ブラック・ミラー〉となる。その点で非常に”らしい”作品だった。だからこの作品は私にとっては「歴史改変もの」なのだ(ええ?)
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