鈴峰らんか

僕らは奇跡でできているの鈴峰らんかのレビュー・感想・評価

僕らは奇跡でできている(2018年製作のドラマ)
4.5
新番組のキャンペーンの中で出演者らが分類するのが難しいドラマと言っていたのが気になっていた。予告編を観てもヒロインらしき人物はいるけどラブストーリーではなさそうだし、高橋一生がただ気持ちよさそうに自転車を漕いだりカメを愛でたりするだけだったからストーリーの予想が全くつかなくて。

観終えて感じたのは高橋一生が生きづらさを抱えた主人公・一輝を“テレビドラマになるギリギリの線で”演じる、ある意味スリリングなものだということ。あれ以上の過剰な芝居をすると病的なものを感じさせてしまうし、抑えたらただの空気の読めない人になっていたと思う。あえてハートフルなヒューマンドラマですよ~という顔をしているが、取り上げる角度によっては殺伐としたキャッチコピーがついてもおかしくないと思う。

初回では一輝を面倒なやつだな、こんなの身近にいたらブッ飛ばしそうと思った。優しい人にたくさん助けられて職を持ち生活もできているが、正直みんな優しすぎない?という気持ち。回が進むに連れて、一輝はとにかく自分に気持ちよく生きているだけだとわかってくる。自分が疑問に思ったことに丁寧に向き合い、心地いいことを優先する。それが出来るから人の大事にしていることにも敏感。でも「自分は常識ある人間だ」と思い込んでいる人たちからは妬まれ、理解されない。

榮倉奈々演じる育実もその一人。世間的には開業医としてとても立派に暮らしているが、一輝と向き合うことになり自分がどんどん不器用で狭量な人間だと気づいていく。気持ちが同調して「ああ、私もその一人だったんだな…知らず知らずに自分の考え方をガチガチに固めて、理解できないものを理解しようとせず排除してマウンティングして安心してる人間だったんだ…」と気づかされてしまった。

つまるところ「引き寄せの法則」のドラマ化に近いと思う。ものの考え方を変えるということを優しく教えてくれるドラマ。まず自分を肯定し、次に他人を肯定し、思い通りになるよう心のままに進んで行く。これが大人になるとなかなかできない。なぜかというとそんなモデルケースが周りにいないから。歌手やYoutuberみたいなごく限られた才能あるラッキーな人だから自由に生きているのであって、そんなことは出来ないししてはいけないと思い込んでいる人がほとんどじゃないかな。

一輝と育実が自分のいいところを100個言うシーンで、小さいことでも自分を認めていいんだと思えたし、自分に気持ちよく生きることはそんなに難しくないと教わった。

ちょうど高橋一生がズルい男とかハイスペックな男でラブストーリーに立て続けに出演していたころ。安易に分類できるような人間(アニメキャラみたいなね)を演じることも容易くやってのける俳優だけど、そんなことじゃ満足できないと思っていた。あの空気を操るような芝居は唯一無二。ドラマのオチは唐突だが、それもありかと思わせるキャラクターを生み出す才能に感服した。

私が好きなのは9話で樫野木先生(要潤)にひどいことを言われた一輝が心底傷ついたという顔をするシーン。心の深いところにざっくり傷を負ったことを強く感じさせる名演だったのでぜひ観てほしい。
鈴峰らんか

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