ジェームズガム

YOU -君がすべて- シーズン1のジェームズガムのレビュー・感想・評価

YOU -君がすべて- シーズン1(2018年製作のドラマ)
3.9
ネタバレあり














【雑感】

 シーズン1単体だとスコアは3.6といったところか。
 シーズン4のパート1まで観て、遡って評価を高めたくなった。

【ざっとしたストーリーの流れ】

 書店を経営している主人公の店にヒロインがやってくる。一目惚れをした主人公はヒロインをストーキング。彼女の周囲には、DV彼氏、肉体関係を持とうとしている大学教授、問題を抱えた家族、彼女を人形のように操ろうとしてくる親友などがいた。主人公はヒロインの問題に暴力的な手段で対応していく。一方、隣人の子供がネグレクトを受けており、その対応もすることになる(こちらは短絡的な手段を最後まで取らない)。
 ヒロインと結ばれ、幸せな生活を送れると思った矢先、トイレの天井に隠していた秘密のコレクションがヒロインに見つかってしまう。ヒロインを閉じ込め、なんとか説得を試みるが最終的には殺害してしまう。子供をDVしていた親父も殺害。子供にいろいろと知られてしまったが、口を噤んでもらう。彼女と寝ていた精神科医を殺人鬼に仕立て上げ、罪から逃れる主人公。ラスト、死んだと思われていた元カノが登場したところで幕引き。

【良かったところ】

・退屈はしないストーリー

 主人公が感情の赴くまま人を殺害するので、どうなるのかと興味を持って観ることができた。さすがに後先考えなさすぎるように思えたが、むしろ計画的すぎるものよりはリアリティがある。ウォルターホワイトやデクスターは死体の処理で吐いていなかった。

・お前がいうなギャグ

 主人公がナレーションで、「このサイコが」「彼女は危険なストーカーだ」とブーメランを投げまくるのが面白かった。このギャグは以降のシーズンにも引き継がれる。主人公の、客観性があるようでない、という人格が出ていて、非常に面白いと思う。

【気になったところ】

・ヒロインの造形(というかすべてのキャラクター)に難あり

 ここが今シーズンの最も微妙なところか。このドラマ、感情移入できる登場人物が一人も出てこないのだ。自分はあまり、感情移入うんぬんで作品を評価するタイプではないが(作り手があえて突き放している場合があるからだ)、今作の場合、誰が死のうが、誰が捕まろうが、割とどうでもいいと思ってしまい、そのせいでサスペンスとしては弱く感じられた。ちなみにこの問題は、次シーズン以降でかなり改善されている。

 ジャンルとしてはサスペンスなので、やはりもっとハラハラさせてほしかったというのが本音だ。誰がどうなろうがどうでもよかったので、主人公のサイコな行動に、あまり嫌悪感を持たずに観れたという面はある。とはいえ、それでいいのかという気がしないではない。子供くらいは応援できるかと最初は思ったが、案外たくましく、そこまで関係性も掘り下げられなかったので、ネグレクト問題も、いまいちのめり込めなかった。子供とのエピソードは、メインプロットにあまり関与せず、最後のヒロインの脱出の手助けをするかどうかのみの関与だった。非常にもったいなく感じられる。この子供問題も、シーズン2からはかなりブラッシュアップされている。

 ヒロインは貞操観念0のビッ〇のような描かれ方をされていて、演じた役者はかなり損をしている感じだった。あの通りに住んでいてカーテンを閉めないのは、見られたがりの痴女と思われても流石に仕方ないだろう。このヒロイン、とにかくセレブやイケメン、優しくしてくれた男性、すべてに股を開く。そのくせ、優等生ぶり、他者を見下すところがある。主人公に始末させることは決まっていたと思うので、良い子として描くのは難しかっただろう。しかし、もう少しバランスを考えてほしかった。彼女が死んでも、「あ、そう……」としか思えなかった。そして、ヒロインに魅力がないので、そんなヒロインに執着する主人公に寄り添うことも困難になっていた。

・殺しすぎ

 主人公が安易に人に暴力をふるうことでサスペンス状況が生まれていた。しかし、基本は主人公の自業自得である。処理に困り、最終的には殺害していた。主人公が手を出す連中は、皆、まともではない。助けるべきだ、とも、殺すべきだ、とも思えないという、なんとも中途半端な連中が犠牲となっていく。そして殺しのハードルが異様に低い。困ったら殺す。これではサスペンス状況としては弱くなってしまうのは必然だろう。同じ技を連続して見せられているようなものだ。本来、人の生き死にという最もサスペンスフルな状況であるはずなのに、ハラハラできなかった。もっと極悪人にして主人公に始末させることでカタルシスを覚えさせるか、シーズン3のように、「こいつ殺しちゃだめでしょ……」みたいなやつを閉じ込めさせるか。そういう展開の一二個はほしかった。エンタメ的な極端さがないせいか、ハラハラがなく、淡々としてしまった印象。最初のDV彼氏を殺害した時点で、どうせこの主人公は殺して処理するんでしょ、と予測できてしまう点もよくない。殺しのハードルが低いせいか、むしろ殺人が、主人公にとっては楽な選択となってしまっている。楽な選択を選び続けているように見えるので、主人公の追い込みが足りなく見えるのだ。
 
 絶対にこの人は殺されてほしくない、と思える人が、一人二人いれば、もっと面白くなっていたんじゃないかと思う。

【総評】

 微妙な点ばかりをあげつらった。しかし、シーズン4のパート1まで観ると、このシーズン1の欠点が、まるで最初から想定されていたかのように思えるのが不思議だ。この時の主人公は、まだ慣れていなかった。未熟だった。だから安易な手段ばかりを取っていたのだ。シーズン2からは、失敗を反省して、安易な殺しはやめようとする。だからこそ、サスペンスとしては、一段も二段も面白みが増したのだ。脚本の完成度は比較にならないだろう。シーズン1は、ツイストという点でも微妙に感じられた。シーズン2以降は、後半になるにつれ、ツイストが連続していく。驚きの展開が待っている。つまり何が言いたいのかというと、成長したのは主人公だけでない、ということだ。作り手たちも一緒に成長を遂げているシリーズになっている。それを考えると、このシーズン1は、手放しに面白いと思えるものではないが、必要な過程だったのだ、と思えてくる。そう思わされている時点で、自分はこのシリーズの虜となっているのだろう。それに気づかされた。

 どこまで続いていくかはわからないが、面白いと感じるうちは、追いかけていこうと思う。