ジェームズガム

YOU ー君がすべてー シーズン2のジェームズガムのレビュー・感想・評価

YOU ー君がすべてー シーズン2(2019年製作のドラマ)
4.3
ネタバレあり







【雑感】

 まさか、ここまで面白くなろうとは。素直に驚いた。完全に予想外。

【ざっとしたストーリー】

 元カレから逃げた主人公。新天地で他人の身分を乗っ取り(本人は閉じ込め)、ストーキングを開始。新たなヒロインを傷つけるのを恐れ、プラトニックな関係で我慢しようと努める。時を同じくして、隣人の子供がロリコンセレブに付け狙われていることを察知。主人公は過去のことがあり、子供は放っておけず、守ろうと努力する。結果、セレブを殺害。主人公は、自分は変わったのだということを示すため、閉じ込めていた男を解放(母親に孤児院に閉じ込められていたという過去がトラウマとしてあり、自分はそうしたくない、と思っての行動だ)
 ヒロインの弟とも関係を構築していくのだが、元カノが居場所を突き止め、なんとヒロインの弟の彼女となってしまう。彼女を消そうとするが失敗。ヒロインが追っ払ってくれたことが判明する。しかし、別れ話を持ち出され、失意に暮れる。なんとか関係を修復しようとしていたところ、隣人に怪しまれ、秘密の檻を発見されてしまう。幼い妹がいる彼女を始末するわけにはいかない。それはヒロインに相応しくないと思い、逃げようとする主人公。しかし、弟に捕まり、脚本の協力をしなくてはならなくなる。弟に薬をもられ、手が血まみれになる幻影を見る。ヒロインに告白され、ヒロインを連れて街を出ようと考える。その前に、閉じ込めている姉を早く出してやろうと考え、檻に向かったら、死体を発見。

 誰が殺したのかを推理する。結果、自分がやったのではないかと疑う。檻に改めて向かうと、元カノに襲われ、檻に閉じ込められた。ヒロインを呼ばれ、すべての罪を告白。これで終わりかと思いきや、ヒロインが元カノを殺害。実は、檻の中の女を殺したのはヒロインだという。ドン引きする主人公。ヒロインは怪物だったのだ。時を同じくして、主人公が殺人鬼だと確信する弟。そして、犯人に仕立てられそうになっているジャーナリストの妹。

 主人公はいろいろ考えた末、ヒロインを殺そうとするが、妊娠していることを知り、殺害を取りやめる。ヒロインと結婚して幸せな家庭を築くしかないのだ。妹には逃げるよう伝えた。保護施設は駄目、ヒロインの家族を頼るのも駄目だからだ。金は送ると伝える。最低な気分でいる主人公のもとに、弟が銃を持って現れる。殺されそうになったところを、警官に助けられる。弟は死に、ヒロインの依存対象は主人公のみとなる。二人は引っ越した。そこで囚人のように過ごそうと考えるが、愛らしい隣人を発見して、始まりを予感するところで幕引き。

【よかったところ】

▼シーズン1を下敷きにしながら読めない展開を構築


 なんとなく連想されたのは空想科学アドベンチャーの『カオスヘッド』『カオスチャイルド』の関係性だ。カオスヘッドは個人的に凡作だと思うが、カオスチャイルドはすさまじい傑作だった。カオスチャイルドはカオスヘッドを下敷きにしていた。それがよかったのだ。カオスヘッドと似たような展開でありながら、一つ一つのイベントがブラッシュアップされ、捻りも多くくわえられていた。カオスヘッドを知っているプレイヤーほど、驚かされるという構造になっていたのだ。

 本作もそれと一緒だ。シーズン1の展開をなぞっている部分が多い。だが、主人公が「殺したくない、ヒロインを傷つけたくない、ヒロインにふさわしい人間になりたい」と考えている点から、どんどんシーズン1の流れから外れていった。シーズン1の主人公であれば安易に人を殺していたであろうが、今回は殺すという手段を安易に取らないのだ。だからこそ、人間関係のトラブルが複雑化していき、シーズン1の比ではないほど面白さとスリルが高まった。殺さない方が主人公にとっては難しいのだ。とはいえ、殺してしまうケースもある。今回は、シーズン1とは違い、視聴者が殺してほしいと思うレベルの人間を用意してくれているので、主人公に感情移入しやすくなっている。その点も、前シーズンとは違う点だろう。そして、殺害してしまったことで、主人公は究極的なまでに追いつめられていく。そこも前作と違う点だ。殺すことで、ちゃんと主人公が大変な目に遭う。巡り巡って、隣人のジャーナリストを閉じ込めてしまう展開になる。この人は、もっとも視聴者が死んでほしくないと思っている人物だろう。なぜなら、彼女が死ぬと、妹が天涯孤独となるからだ。主人公は親に見捨てられた過去があり、自分と同じような苦しみを妹に味あわせたくないので、殺すと言う選択が取れなくなる。つまり、逃亡を余儀なくされるのだ。これは本当に素晴らしい流れだと思う。元カノに見つかるところもよかったが。今回は、主人公に対しての追い込みが、前シーズンの10倍くらいはあるように思う。主人公が、100%善意の行動で追いつめられていくので、シーズン1とは違い、ある程度の感情移入もできるようになるという、見事な脚本だ。素晴らしい。

 ここだけでも素晴らしいのに、さらにこのあと、意外な展開の乱れうちがある。

・弟に「脚本ねろう」とただをこねられる
・弟と一緒に連れ去られる。
・ギャンブル依存所で、借金のせいで誘拐されているのだ、と弟から言われる。まさか、自分のしでかしたこと以外で死ぬことになろうとは、と思う。
・実はすべて嘘で、同級生を金で雇い、ホテルに軟禁させるというショーだった。主人公がどう交渉しても、同級生は、外に出たら撃ち殺す、と言ってくる。
・ジャーナリストの妹が登場。妹に脚本をこき下ろされる。
・弟、窓から飛び降りる。(ここはめちゃくちゃショッキングだった)。実は、下はゴミ捨て場になっていて無事。
・酒場で薬を盛られる。
・ホテルで弟に真相を言い当てられ、演技ごっこで、弟を殺しかける。
・手が血に染まる幻影を見る。
・誰も殺してなかった、と思いきや、隣人のお姉さんが死んでいた。
・まさかのフーダニット展開。(記憶をなくしてフーダニットは、シーズン4の第一話に引き継がれる)
・隣人を殺したのはヒロインだった。

 この後半のツイストの畳みかけは凄いと思う。まずはやはり、弟のキチっぷりによって、主人公を極限状態に置いているのが見事。この弟ならやりかねない、と思わせてくれた。個人的には「連れ去られ展開」「窓からの飛び降り」「閉じ込めていた隣人の死」の三つがよかった。心の底から驚いた。よくもまぁ、こんな展開を考えつくものだ。ぐるんぐるんと振り回されたよ。


▼魅力的なキャラクター

 主人公はあらゆる意味で禁欲的となり、応援しやすい存在となった。もちろん、きもい部分はきもいが。なぜシーズン1の頃から子供を気にするのか疑問だったが、母との回想を見て、理解できた。今回は主人公のバックボーンのほぼすべてが明かされており、その点からも、見やすくなっていたのだろうと思う。

 ヒロインもよかった。前回のヒロインはいろいろな意味で残念な人だったので、今回はいいじゃんと思えた。いい人だから主人公にたぶらかされず、真っ当に生きてほしいな、と思え、応援しながら観れた。このシリーズの中で一番まともな人に思えたのだが……まさか、一番やべー奴だったとは。

 ヒロインの弟もよかった。最初はごみクズじゃん、はよ死ね、とか思っていたが、観れば観るほど嫌いになれないキャラクターとなった。生きづらさや弱さを抱えていて親近感さえ覚えた。彼がいたことで今シーズンは最高に面白いものになったと思う。功労者だ。

 隣人のジャーナリストもいい。普通にいい人。だからこそ、死んだところは普通にショックだった。可哀想。主人公が引っ越してこなかったら、あんな末路にはならなかったろう。

 妹もいい。年相応のクソガキ感があり、後半からは、主人公に適度な距離感で接していた。彼女も可哀想だ。主人公は金もっと彼女にやれや。

 最初に閉じ込められた人も、びっくりするくらい良い人で好きだ。和んだ。シーズン3、シーズン4でもバディ化してくれていたら最高だったのに。そう思うほどだった。

 元カノは、作り手達の都合で動かされている感じがした。そういう意味でも可哀想。

 こうしてみると、今シーズンはとびきり良いキャラクターが揃っていた気がする。逆にいうと、今シーズン以外は嫌な連中ばかり。

【微妙なところ】

・ヒロインの正体

 後半はツイストの連続で大変楽しめたが、ヒロインの正体を開示するところは、ちょっと惜しかったように思う。というのも、元カノが警察を呼ぶ前に殺害現場にヒロインを連れてくると宣言した時点で、ヒロインが元カノを殺す展開は予想できてしまうからだ。そうなると、隣人を殺したのもヒロインと言うことになる。それまでは上手く予測の上、斜め上をいく展開で楽しませてくれていたが、ここだけはちょっとわかりやす過ぎではないか、と思った。とはいえ、「くるぞ、くるぞくるぞくるぞ……キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」とはなったので、これはこれでいいのか。

▼妹の扱い、福祉の考え方

 主人公は妹を逃がした。保護施設は経験上クソ、ヒロイン一家は信用できない、だから逃げるのだ、金は渡すよ、と。
 一貫してこのシリーズ、孤児院に行くと不幸せになる、みたいなことを言う。実際のアメリカの孤児院の事情を知らないのでなんとも言えないが、孤児院を出て真っ当に暮らしていけている人は少ないのだろうか? もちろん、主人公が暮らしてみてクソだと思い、クソだと言っているだけに過ぎず、実際のところはまともな孤児院もあると思う。作り手が「孤児院はクソだよ。あんなところ行ったら真っ当になれないよ」と言っているわけでもないと思う。ただ、この描き方だと、孤児院育ちの人、孤児院で現在暮らしている子供達、孤児院で働いている人達、気分良くないんじゃないかと思う。当事者ではないのに、センシティブになりすぎている気もしないではない。

【総評】

 面白かった。シーズン3も頑張っていたが、このシリーズでいまのところ一番面白いのは今シーズンだと思う。シーズン4はパート2によって評価が激変する可能性があり楽しみ。シーズン2から一気にハマってしまった。

※追記

よくよく考えてみると、主人公が殺害したのは、マフィアの金貸しサイコとロリコンセレブのみ。シーズン3でも、主人公が殺したのはイカレた人間のみ。ここら辺のバランスも巧い。