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君の手がささやいているのardantのレビュー・感想・評価

君の手がささやいている(1997年製作のドラマ)
4.8
加賀まりこ、木内みどり、本田博太郎、石田太郎らの脇役陣はもちろんのこと、冷静で、誠実で、ケレン味の無い演技で好演した武田真治に拍手を送りたい。
しかし、本作品の主人公は菅野美穂だ。私は、第一話の冒頭、紺のスーツを着て、最初の出勤をする彼女の可愛らしさに圧倒された。その白眉の可愛らしさは、出会いから結婚までを描いた第一話の全てに観ることができるものだった。だから、第一話が最も好きだ。
そして、全編を通して、彼女の熱演に素直に感動できた。
彼女は走る、走る。とにかく走る。心の思いを、自分の言葉で全て表現できないことの代わりであるかのように。
時折、話す声の響きとその時の表情、いつも不安げな表情、顔をくしゃくしゃにして涙を流す彼女の姿に。
彼女が、「自分はみんなから幸せをもらうだけで、与えることができない」とささやいた時、私は彼女にこう伝えたかった。「あなたの存在自体が、みんなに幸せを分け与えている」のだと。
同様なテーマを扱った『愛していると言ってくれ』(95、TBS)でも、豊川悦司の手話は美しかったが、本篇でも、菅野美穂とその女友達の手話での会話を遠くから描写したシーンは際立っていた。
その手話を全て翻訳せず、観る側の想像力にまかせた演出も秀逸だった。
「耳が聞こえないということは、その人の個性だ」、「手話って素敵ね。声が届かないほど離れていても通じあっちゃうんだもんね」というセリフの脚本岡田惠和と共に。

年一回、五年間の長期に亘って、このような良心的な作品をシリーズ化したテレビ朝日と同時に、この作品を毎年待ち続け、しっかり見届けた一般視聴者にも万雷の拍手を。

菅野美穂は、五年間のドラマの中で、女として、母として、確かに、成長していった。そして、その期間は、彼女自身が、役者として、人間として、成長した期間でもあったはずなのである。
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