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有村架純の撮休のkoheiのレビュー・感想・評価

有村架純の撮休(2020年製作のドラマ)
4.5
①「ただいまの後に」
是枝監督回。脚本は別の人。是枝監督が脚本を担当していない作品って実はそんなにないんじゃないだろうか。たぶん観たことがない。ただ脚本に入っている比嘉さくらさんという方のお話も滋味深さがありながら案外骨太で、是枝映画っぽさが現れている。スーパーで食材を選びながら、家に向かって歩きながら、食事をつくりながら。ながらのなかの「会話」で徐々にあらわになっていく(あくまでも)本作における“有村架純”という人物の人柄。第1話にして非常にその性格の表出が雄弁で、彼女の人生の続きが気になってしまう。序盤に駅で見かけたある子どもの姿が、なんとなくいろんな場面で頭に思い浮かべてしまう、この世界観の創出も巧い。3度ほど繰り返される「遠くに歩いていく母娘」という描写が、この画角(作品)の外にある生活と会話を想起させる。川口春奈がYouTubeをはじめた今、物語にできるのはこれなのだという確かな実感があった。

②「女ともだち」
今泉監督回。有村架純の魅力が爆発していた。それはすなわち、テレビで見る彼女のパブリックイメージからこぼれ落ちた瞬間が描写されているということだ。誰かに「かわいくない」と言われようともそれが本当の自分なのだし、「いやどう考えてもかわいいだろ」の連続だった。そしてリアルとテレビのパラドックスに生きる劇中の有村架純の姿に、その奥に、本当の有村架純がいることを想う。
今泉監督の作品ではいつも、さまざまな人間関係や性格が折々に転写されていき、「結局みんな似たとこあるよね」って思わせるところにひとつ魅力があると思う。ここでは有村架純がテレビ→リアルへの「転写」から華麗に「反転」を決めることで、この演出機能が大きな飛躍を遂げている。脚本は違う人だけど、是枝監督回と同じくいいハマり方をしてる。
あと今泉作品における「3人の会話劇」はだいたいおもしろい。『サッドティー』の男が透過していく場面、『mellow』の田中圭がブチギレられるとこ、そして今回も。このどれもが最後には3人→2人へとよりわかり合える世界に逃亡する。その今泉映画の幸福が集約されたラスト1分間が最高だった。

③「人間ドック」
とんでもなくエロい場面があるけど、今回の注目点はそこじゃない。「直接触れることができない」というところにドラマがある。それはあの、バリウムが口にべっとりまとわりついたおじさん(リリーフランキー)が馴れ馴れしく有村架純に触れる場面との対比を考えれば明らかだろう。もうあのころのように簡単には触れることができない場所にいる。それでも想起されるのは、心の奥底で光つづけるかつての記憶の断片。『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』だ。

④「死ぬほど寝てやろう」
話がおもしろくない。前の3話と比べると有村架純の魅力も激減。『インセプション』がやりたかったのでしょうか?

⑤「ふた」
これはまたすばらしくおもしろい。瓶のふたが開けられなくて、開けようと1日奮闘する話。それだけの話なんだけど、「開かないふた」は深層心理とも密接にリンクしていて、一回捨てちゃって(諦めて)、でも取り戻そうとする逡巡とかグッとくる。普段はフィクション、演技、嘘で塗り固められた有村架純が、端を切ったように本音を独白し、真実と向き合うさまの清々しさったら。滑走する自転車の躍動感と夕陽に照らされた顔のラストが絶妙。少年たちも最高だった。

⑥「好きだから不安」
https://bsk00kw20-kohei.hatenablog.com/entry/2020/04/25/202204

⑦「母になる(仮)」
是枝さんの弟子である津野愛監督・脚本回。フェイクドキュメンタリーの特性を活かした「嘘」と「本当」にまつわる話。突如家にやってきた少女との「偽物の母娘」関係を通して、有村架純が原初的な「演じること」=「嘘」の本質、その幸福にたどり着くまでを描く。オレンジジュースの挿話がみずみずしくていい。12月の夜から急に夏へとジャンプするラストが秀逸。
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