ゲイリーゲイリー

テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく シーズン1のゲイリーゲイリーのレビュー・感想・評価

3.5
プレミアリーグの監督に就任する事になったテッド・ラッソ。
しかし彼は元々アメフトコーチなので、サッカーに関しては素人だった。
プレー経験のみならずルールさえもよく分かっていない新監督に対して、選手や地元ファンからはブーイングの嵐。

そんな周囲の批判に怯む事なく、自らのペースで選手や地元ファン、オーナーやコーチたちの心を掴んでいくテッド・ラッソのキャラクターが本作最大の見どころ。
チームの勝敗を絶対視するのではなくチームの雰囲気、球団全体のカルチャーを根本から良いものにしようと奮闘する彼の言動からは見習うべき部分が数多くある。
常にご機嫌で物事のポジティブな面を見出そうとする姿勢や、誰にでも公平に接する姿勢など、誰もがやるべきだとは思いつつもなかなか実行できない事を彼はすんなりと行う。

その結果周囲の人から信頼を勝ち取り、選手やスタッフたちにポジティブな影響が伝播していく。
と、ここまで見ると少し出来過ぎな感じが否めない。
そんなポジティブ礼賛が通用するのは所詮フィクションだから、と思うのも無理はない。

しかしこのドラマが本当に素晴らしいのは、
テッド・ラッソをただただ前向きなだけのキャラクターとしては描いていない点だ。
彼にも知られざる問題があり、それを乗り越えるため辛い思いをし心を痛める。
時には不機嫌になって八つ当たりしてしまうし、誤った判断をしてしまう。
それでも彼は他者に親切にすることをやめないし、卑屈になってポジティブなマインドを否定することもしない。

また、そんな彼の言動に感化されていく他のキャラクターたちも個性豊かで、彼らも本作にとって欠かせない魅力となっていく。
次第に変化していく彼らの関係性からは、人はいつだって変われんだということを強く意識させられる。

アメリカとイギリスの文化の違いの描写を筆頭に、スポーツ界に蔓延る有害な男性性やメンタルヘルスなど、あらゆる角度から様々な問題を作品に注入する事に成功した本作。
スポーツ経験の有無に関わらず、きっと多くの人の胸を打つに違いない。
こんなにも万人に勧めることができるドラマは非常にレアだ。