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クイーンズ・ギャンビットのNMのレビュー・感想・評価

クイーンズ・ギャンビット(2020年製作のドラマ)
3.8
母と二人きりトレーラーハウスでひっそり暮らしていた9歳のベス。
突然の事故で身寄りがいなくなり施設へ。そこでは全ての子に毎日精神安定剤を飲ませていた。
ベスはそこでチェスを初めて知り才能を開花させていく。
同時に薬にものめり込み常用するように。
果たして彼女は成功できるのか。

ヒロインは一人で行動することがかなり多く、心情をはっきり吐露するシーンも少なくいつも無表情なので、いつもこちらで心情を細かく観察し推理しながら観ることになる。視聴者が自由に補足できるところが多くの人に支持されているのではないだろうか。この作品の見どころはどこかと言うと一番はこの点ではないかと思う。

特に喜びの感情を表すシーンがとても少なく、喜ぶシーンがあると次は落ち込むシーンが来るはずという定石で次の展開を推理することは不可能。
話が進むにつれ過去の思いや事情などが少しずつ明かされていく。成長とともに少し感情表現や台詞は増える。
何話か進めるとたまに感情を爆発させるシーンがあり、それまで少しずつ高まっていた思いが一気に溢れて感動する。

一話ごとに彼女の運命がぐっと進み、次にどうなるのか観ずにはいられない。いたずらに不安をあおるような演出がなく、しかし常に不安要素が滞在している。劇的な演出がなく落ち着いて観られるが不思議と引きつけられる。

大会に出場するたびなにやらクセの強そうな人物ばかりが登場し、次々と敵を倒して強くなっていくストーリーは意外と少年漫画的。やがて彼女自身もクセが強くなっていくのも面白い。たまに普通の人が出てくると逆に目立って見えたりする。
一度去った人物がまた違った形で再登場するのが痛快で思わずにやにやする。

女性が主役でありながらストーリーにはそれほど性別は関係なく、あくまでそっと女性の生き方を応援するような姿勢が時代に即したバランス。

一人きりの子どもであるヒロインは常に大人のサポートが必要なわけだが、明らかに信頼のおけるという大人というのがなかなかおらず、かといって完全に一人にはいつもなりそうで結局なっていない、という絶妙な設定。
成長しても、そばにいる人はよく変わる。

彼女を引き取った母親の描き方も面白い。
最初はダメ人間でベスの足を引っ張り続けるのかと思いきや、意外と娘との関係を深め、女性としての先輩、友人、同志、失敗例として様々な示唆を娘に与える。人前でピアノを披露する姿は魅力的だったりもしたがまさかの結末。

母や継母たちを思うと、薬や酒に依存してしまうのは親のせいかとヒロインは考えているふしがずっと漂うが、ついにそれを友人が論破してくれてすっきり。

電話の父の最後の台詞が冷酷過ぎて個人的にかなり嫌いなシーン。それまで何となく冷たいだけだった彼がここではっきりと酷い態度を取る。
こんな時に、誰も悪くなくて彼女自身の責任であり運命であるというような言い方。そうだとしてもこの時に言うべきことではない。その後も結構な悪役。自分のわがままさや邪悪さを認めないところが嫌い。

ヒロインは前々からどうも男子に興味を持っていることは示されていたもののなかなか恋愛が進まないのも面白い。男が去る度に、いやその人じゃないんかーいと肩透かしを食らう。

チェス大国であるロシアで大勢が見守る中チャンピオンに挑む様子が個人的に一番感動した。始まっただけで感激。前回はぐずぐずだったけど、今回はまともな状態。友人の支えを得て、何かを克服して強くなったらしい。シリーズ最終話であるこの7話は一旦集大成といった感じで説明も丁寧、光があり音楽もあり割と普通のドラマっぽい感動ポイントがいくつかある。フツ~と冷めることなく素直に感動できる。

ファッションはかわいいし建物や家具もおしゃれなのだが、あくまで脇役。そんなことはすぐ忘れさせるぐらいストーリーにのめり込める。

言語のほうが好みだった。日本語版は、例えば先生がやたら意地悪そうな声にされていて単純化されている感じ。

「気が付いたら他人に言われたものを必死に探し回るようになる」
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